「たった今から名前は俺のフィアンセだ」

意気揚々として仰ったレオンに、思わず目を見開いた。今のはまさかレオンなりの告白だったのだろうか、しかもわたしは何故かOKを出したような雰囲気?急展開過ぎてひとつも状況が呑み込めない。フィ、フィアンセって何、恋人?今から恋人?…困った。だって、わたしは今までだって1度もレオンをそんな目で見たことがない。わたしはレオンを突然日本に舞い降りた、完璧な王子様みたいに思っていただけだから。たまたま隣の席で関わることは確かに多かったけれど、近くにいながらも遠い存在だと思っていたから。だけどレオンは違ったんだ。あんなに沢山の女の子たちの中から、わたしだけを選んでくれていたんだ。しかも、出会った時からずっと。そう思った途端、何やら息が詰まるような緊張感がじわりじわりとわたしを蝕んでくる。レオンと目が合う度、加速する鼓動に戸惑いが隠せない。

(あ、れ、なんか、意識し始めたらおかしくなってきた…!)

「名前?」

「は、はい!」

「これからエスケープしないか?」

「え、授業は…」

「今度俺が手取り足取り教えてやるから」

(おいちょっと待てどこでそんな言葉覚えた…!)

「そうじゃなくてっ、いや助かるけど!レオンは優等生なのに…授業さぼっていいのかなあ、なんて」

「課外授業だと言っておけばいい」

「ちょ、よくないよくないむりむりむり」

「つべこべ言わずに行くぞ」

それにしても喋れば喋れば喋るほどに流暢な日本語。一体何処でそんな日本語を習得したのだろう、このおマセな王子様は。軽い溜め息をひとつ吐き、レオンの腕を引っ張って扉を開けるのを制した。こちらに向けられる揺るぎない真っ直ぐな瞳に、決して信者ではないわたしもそろそろ折れそうだ。あぁもうずるい、ずるいよ、この王子様。

「わたしをフィアンセにするなら、ちゃんと告白して」

レオンからわたしへの確かな気持ちの証明が欲しい、そんな思いで勢いで言ってしまった。故に言い切った後からじわりじわりと羞恥心がわたしを襲う。顔がみるみる内に熱くなって、レオンの顔も見れず俯いてしまった。

「名前、まるでタコヤキみたいだな」

「………え、タコヤキ…」

(茹でダコとかではなく…?タコヤキ…?)

「可愛い」

「か、からかわないでよっ」

「美味しそう」

「い…意味わかんないっ」

「好きだ」

(不意打ち…!ぐ、はっ…)

「その真っ赤になった顔も、全部俺がひとり占めしたい」

レオンの手が、ゆっくりゆっくりわたしの頬へと伸びてくる。その手はまるで宝物を扱うかのように、優しく、わたしの頬を撫でた。



(あ…、)



「付き合ってくれ」



(好きに、なっちゃった)



「…はい」


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