ほんの少しだけ急な坂を駆け上った先に見えたのは、古びた木造の小屋。銃弾をリロードしつつ「名前は此処で待ってろ」とわたしの歩みを制したレオンは、中を慎重に窺いながら小屋へと入って行った。
「レオンー入っていーい?」
「駄目だ」
「えー…」
ぷうと頬を膨らませてふてくされながら、小屋の入り口付近でしゃがみ込んだ。近くの小枝を拾い上げ、土に落書きをしながらこの小屋には何があったっけ、とゲームをしていた頃の記憶を遡ってみる。確かお金みたいなのと、葉っぱと、―あ、確か壁に女性の死体があったような、。まさかわたしにそれを見せないように気を遣ってくれてるの?気分悪くさせないように?だとしたら、
(優しい…)
なんて考えている間に用を済ませてきたレオンは、小屋から出るなりわたしの頭に軽くげんこつを落とした。
「いたーっ」
「遊んでないで立て」
「はあーい」
「何にやけてるんだ?」
「え、にやけてた!?」
「あぁ、かなり」
「うわああああ」
「静かに」
「むぐっ」
敵が近くにいたことに気付いたレオンは、すぐさま叫ぶわたしの口を抑えた。けれど近くにいたガナード2人には存在がばれてしまい、叫びながら此方へと走って来る。空耳で“おっぱいのペラペラソース!”って聞こえてしまったけど気にしないでおこう。やれやれとでも言わんばかりの呆れ顔で銃を構え、起用に2人の頭を撃つレオン。うむ、こんなときに不謹慎だけどもやっぱりイケメンだ。
「そう言えば」
「ん?」
「名前は、あの小屋に辿り着く前にでもこの少女を見かけなかったか?」
見せられた写真には言わずもがな、可愛い可愛い美少女アシュリー嬢が映っていた。勿論居場所も知っているしこの先どうなるかなんてことも全てお見通しなんだけど、ほらよくこのテの物語って異世界から来た主人公は基本的な登場人物にこうなんか余計なちょっかい出してはいけないみたいなお約束ってあるじゃない?夢だからいいのかななんて一瞬思ったけど口を挟むのはレオンが積んだときだけにしよう、となんとなく軽い気持ちで今決めてみた。わたしは首を横に振り「わからない」と答える。
「大統領の娘…アシュリーが謎の集団に誘拐されてだな、俺がその救出任務に来た」
「ほう、お1人で」
「あぁ、泣けるぜ」
「じゃぁ早く見つけなきゃね!」
「先を急ぐか。此処の奴らは女にも容赦ないらしい」
「いえっさ!」
ぴしり、敬礼するとレオンが口元を抑えて笑った。ゲームをやってたときは全然想像すらしてなかったし、知らなかった。この人はこんなに優しくて、こんなに素敵に笑えるんだってこと。知れてよかった。…まぁ夢だけど。
「走るぞ」
「らじゃ!」
村の門を目指すべく、わたしたちは細い橋をそそくさと渡った。
(まだ覚めませんように)