レオンの背中を見送ってから早3分、滝イベントを難なくクリアしたらしいレオンがお昼の料理番組並みの速さで戻ってきたのが本日1番のハイライト。
「用事早すぎさっすが」
「早く降りてこい」
「あ、このロープ手痛くなるパターンだ!」
「早く降りてこい」
「はーい…」
拙くもゆっくりとロープを使ってレオンの待つ地点へと降りていく。わたしも結構そろそろこのサバイバリーな感じに慣れたんじゃないかな、どうなの。そしてなんだかんだレオンが目を離さずにじっと着地するまでわたしの安全を見張っててくれたのがちょっと嬉しい。無事着地してから、切り開かれた洞窟まで2人で急いで向かった―
「ここ最近常に濡れてる気がする…」
「まぁ仕方ないな」
「水着で移動したい」
「寒いだろ」
「…寒いね」
洞窟の中を進んで行くと大きな扉が現れ、ようやく教団の丸い紋章を入手することが出来た。更にその先の道が開かれ、歩いて行くと水路が広がっている。目の前にご丁寧に用意されていたボートに2人で乗り、あのご趣味は…から始まるお見合いかのような会話を今更広げながら道なりに進んで行くと辿り着いたのは武器商人のお店。買い物や改造を終え、梯子と階段を上った先の扉を開けると再び外の景色が広がっていた。広場まで来ると、大量の村人(ガナード)たちが慌てたように大声を上げながら綱を引っ張っている。
「一体何だ?」
「綱引きでしょ」
「老人会の体育祭でもしてるのか?」
レオンの酷い言葉が紡がれた瞬間、ズドォンと耳が割れるくらいの破壊音とともに現れた巨大な怪物。―エルヒガンテ。村人ガナードたちはこの怪物から逃げていたのだろう、レオンは冷静に解釈しながらガナードたちが1人ずつ潰されていくのを黙って見ている。随分と余裕綽々である。わたしはというと幾ら小癪なゾンビたちが殺されるにしろ、結構残虐なシーンな気がするために手の平で視界を隠しながらたまにチラ、と。否でもやっぱり見ない隠す。
「…こいつがエルヒガンテか」
「そうみたいっすよボス」
「誰がボスだ」
「わたしはあのどこら辺にいれば邪魔になりませんかね」
「小屋の中」
「いえっさ」
レオンの指示通り走って近くの小屋へと逃げ込み、体を小さく縮めながら窓から恐る恐る外の様子を眺めると、―
「え、こっち来てる…!」
ドッシン、ドッシン、と地響きをたてながらあの恐ろしい巨体がこちらに真っ直ぐ走って来る。外に出なきゃ、でも足がすくんで動かない。何のホラーだこれ…!と錯乱している間にも、寸前にまで怪物は来ていた。
(やだこわい…!)
大きく腕を振り上げられた瞬間、ぎゅっと目を瞑った。頭上では激しい破壊音が鳴りやまない。恐ろしい。恐る恐る天井を見上げると、涙で視界が滲みながらも映ったのは黒い空、雨。今の怪力で屋根を外されてしまったらしい。無くなった天井から、にょきりと怪物が顔を出す。わたしの心臓が飛び出そうなくらいに鳴っている。わたしは頭を抱えてしゃがみ込んだ。―…無音。そしてエルヒガンテの苦痛な叫び声。はっと顔を上げると、―
「相当な女好きなのかコイツは…そろそろ俺も構ってもらおうか?」
ニヤリと口端を上げるレオンの姿が、エルヒガンテの背中の上にあった。弱点であるエルヒガンテの背中の寄生体をひたすら攻撃するレオン。いつの間にやらエルヒガンテの足にはこの間助けた白犬、ポチが噛みついていた。2人からの連鎖攻撃にみるみる弱っていくエルヒガンテの姿が目に見えて分かる。何度か攻防戦を繰り広げ寄生体をナイフで切りつけながら核を突いていくと、最後の雄叫びを上げ、エルヒガンテは木や沢山の小屋を犠牲にしながら大の字になって倒れた。
「…手こずらせやがって」
「ありがとうレオン」
「何泣いてんだ名前」
「いや、うー…ついに死ぬかと思った…」
「馬鹿め、俺がいながら死なせはしない」
「すごい自信でござる…」
「(ござる…?)」
「ポチも、ありがとう…」
「お前のお手柄だポチ、助かったぞ」
ポチが嬉しそうに引き千切れそうな勢いで尻尾を振っているのであまりにも愛しくてポチを抱き締めた。レオンも小さく笑みを浮かべながらポチの頭をそっと撫でる。…く、今回のナデナデヨシヨシはポチに譲ってやろう。そんなわたしの心境も知らずに無邪気にわたしの涙を舐めとるポチ。…やっぱり可愛いから許す。そんな様子を見て勘付いたのか何なのか、レオンは「お前たちソックリだな」と優しくわたしの頭にも手を置いた。…ちょっと待ってどういうことだ。