ジェット機の真下に浮かび上がる気味の悪いシルエット。間髪入れずうなり声をあげて現れた巨大な怪物、デルラゴの姿。水飛沫を撒き散らしながらわたしたちの頭上を軽快に跳ねた。…でかい。本物は半端なくでかい。激しく揺れるジェット機の中で、わたしは落ちぬまいと必死に背もたれにしがみつく。そして、その激しい揺れのせいで軽い吐き気を催したらしい。
(こんなときに船酔いとか勘弁してくださひ…うっぷ…)
しんと静まり穏やかになった湖。デルラゴが近場から去ったのだろう。それでも吐き気は去ってはくれなかった。生気を失ったかのように俯いていると、レオンが背中をさすってくれていたらしい。後ろから「大丈夫か?」と優しい声が聞こえた。大丈夫だよ、と最後の力を振り絞って振り返った瞬間。視界に飛び込んできたのはレオンの後ろにデルラゴの大口が開かれているという地獄絵図。
「レオン!後ろ!」
「…いたのか」
レオンは冷静に立ち上がるなり、毅然とした態度で銛を構えていらっしゃる。どんだけ肝が据わっているんだこの方は。そんなレオンの様子に、わたしの恐怖心も少しずつ和らいでいく。ただし吐き気はおさまらない。
「銃は使わないの?…うぷ…」
「魚には銛で十分だろ」
かく言うわたしは以前手榴弾で漁業をしていた訳ですが。銛投げに奮闘するレオンの背中を見つめ、命中する度に力ない拍手を送った。何を血迷ったかわたしもお手伝いしようかな、なんて吐き気に襲われながらも銛に手を伸ばした瞬間、
―ぐらり。
ジェット機が傾いた。
「名前!」
ドボンと、わたしの体が水面に落ちる。ゆっくりと、沈んでいく。レオンがわたしの名前を呼ぶ声がうっすら聞こえた。手を伸ばすけど、届かない。息が出来ない。苦しい。どんどん深い場所へ、どんどん灰色の空が遠のいていく。ひたすら沈んでいく。視界が暗くなっていく。何かに掴まれたような、引っ張られたような感覚を最後に、わたしの意識はぷつんと途切れた。