手際よくガナードを倒していくレオンの後ろをはぐれぬように追いかけつつ、わたしたちは吊り橋のようにも見える不安定な作りの道を進む。その途中で床が抜けている部分があり、道がぷつりと途切れていた。そんな中敏腕エージェントなレオン様は軽々その障害を飛び越え、小屋の中へと消え入った。一方わたしはというと、そのぽっかり開いた床の穴を見つめながらその場でしゃがみこむだけ。
(…だってこれ無理でしょ)
案外、穴の幅が広かった。ゲームをしてたときにはボタンひとつで片が付いたことなのに、こうして目の前に突き付けられてしまうとどうにも手足が出せない。早くあちら側へと渡らねばならないのだけど、飛び抜けて運動神経が良い訳でもないわたしが果たして無事に飛べるのだろうか。
(そういえば夢の中だし、いけなくもない…?)
もしかしたら不可能を可能にしてくれるかもしれない。そんな儚くちっぽけな願いを胸に秘め、わたしはすくりと立ち上がった。意を決し、思い切り助走を付けながらジャンプすれば―
「ひぎゃあああああああ」
行けなかったオワタ。案の定わたしの足は届かなかった訳でありまして。短くて悪かったなちくせう。けれど間一髪のところ、わたしの両手は必死に吊り橋にしがみついていた。まさに火事場の馬鹿力。それはそうと下方を見下ろせば、なんたる絶景。霧でよく見えないけれど、地面までの高さが割とある気がする。
(なんてこったい)
カーディガンのポケットに詰め込んでいた飴がいくつか宙に落ちていったのに、落下する音が微塵も聞こえない。いっきに血の気が引いていく気がした。
(まだ、死にたくない…っ)
登らなきゃ、登らなきゃ。絶対に落ちるまいと手に力を込めて踏ん張っているからか、焦りと恐怖で次第に掴んでいる手が震え出す。
「レオ…ンっ」
生まれてこのかた、ここまで指の力を存分に使ったことが果たしてあっただろうか。わたしは此処で死ぬのかな、夢なのに。なんて軽く死を覚悟した。
瞬間、
「…ったく。世話の焼ける」
目にいっぱいの涙を溜めて、声のした方を見上げる。そろそろ限界が近付いてきた。手に力がうまく入らない。ぼやけた視界の中、うっすら映った蒼くて綺麗な瞳と目が合った。
「あっ…」
「名前は随分危険な遊びが好きみたいだな」
「レオン…!助けてえ…っ」
頭上に現れたレオンがわたしの手首を掴み、ふわっと一瞬で上に引き上げた。その後のレオンはというと、平然とした涼しい顔。まるで何事も無かったかのように、小屋に置いてあったらしいメモへと目を通している。わたしは引き上げられたものの力が抜け、思わずぺたりとその場に座り込んでしまった。
「ありが、と…」
「あぁ」
心臓がドキドキしてる。
恐怖でなのか、
レオンに対してなのか、
今のわたしにはわからない。
(どっちも?…か?)