「!?」
扉を開くなり視界に飛び込んできたのは見渡す限り茂る草木。長時間ゲームし過ぎて目が疲れちゃったのかな、わたしは何度も何度も目をこすった。けど視界は相も変わらず住宅街では有り得ないはずの緑が広がっている。
「どうなってるの…?」
回れ右をすれば何故か扉は消えている…どころか、家だったはずの建物が木で造られた古ぼけた小屋になっていた。中には3つの木箱、赤い小さな箱、そしてこれは…なんだろう、タイプライターのようなもの。なんでだろう、どれも身に覚えがある気がする。ほんの少しの好奇心が働き、触ってみようとタイプライターへそっと手を伸ばした瞬間―カチッという音が耳のすぐ傍で響いた。
「動くな」
「えっ」
こめかみの辺りに、何かを突き付けられている。まさか銃口?―いやいや銃刀法に反するから有り得な…いや、有り得る。家が小屋になってるくらいだから、何が起こっても不思議じゃない。不法侵入したわたしにこの小屋の主がお怒りなのだろうか。だけど待ってくれわたしの意思じゃないぞこれ…まさかわたし浮遊病?なんて様々な思考を巡らせ、軽く困惑しながらもごくりと唾を呑み込み、静かに両手をあげた。
「勝手に入ってごめんなさいっ…でも、なにもしてません…!許してください…っ」
「お前…人間か?」
「へ……?」
あまりに突拍子もない質問に思わず間抜けな声を出してしまった。人間じゃなかったら…何になるんだろう、?こめかみにあったそれが離れたのを確認すれば、ほっと安堵の息を吐く。と言いつつも心臓は未だドキドキとしていて緊張感は抜けないまま。
「怖がらせて悪かった。挙動不審だったからついガナードかと」
“ガナード”
知らない言葉ではなかった。わたしが散々プレイしていたゲームに出てきた、ゾンビがパワーアップしたみたいなあの敵の名称。まさかそんなものとわたしを間違えたなんて面白い冗談を言う人だ、と笑いながら振り返って。
「ガナードって!あはは、面白い冗談を言うひとです…ね…っ!?」
思わず目を見開いた。言葉が出ない。頭が真っ白になってゆく。目の前に立つ長身の男性は、不思議そうに小首を傾げた。わたしの口はぽかんと開いたまま、塞がらない。
「どうした、俺の顔に何か付いてるのか?」
「い……え………」
「その顔立ちだとアジア系…日本人、か」
「…あ、は、はい…」
「…?まぁいい。俺はレオンだ、お前の名は?」
さらさらのブロンドヘア、端正な顔立ち、皮のボンバージャケット、手に握られているのはハンドガン。見間違えるはずない。ずっとわたしが操作していた彼に瓜二つ―否、レオン本人だ。