「レオン?」

「サドラー…」

ぶつぶつと呟きながら、附に落ちない様子でレオンはその先の扉を開けた。きっとさっきのメモのことが気にかかるのだろう。わたしの声が全く耳に入らないようだ。廊下の先へ進めば、どこからともなく会話が聞こえてくる。確か此処でまた、村長の登場だっけ。事前に防ぎたくても、今のレオンにはわたしの言葉は届かない。案の定背後がお留守だったレオンは首を掴まれて持ち上げられてしまった。此処で村長は襲いかかって来ないって分かってる、分かってるけど。

(レオンの目赤い…やだ…やだ…)

苦しそうに歪むレオンの表情にはいてもたってもいられず、わたしは必死に村長の大きくて太い腕を揺すったり爪を立てたり、どうにかして解こうと無我夢中で頑張った。けれどびくともしない、なんの力にもならない。村長はこちらを一睨し、しがみつくわたしの腕とともにレオンを床に振り落とした。締め付けられていた首の痛みに呻くレオンを見下ろし、村長は口を開く。

「同じ血が混じったようだ。…だがお前は所詮、余所者。目障りになるような事があれば容赦はしない…」

そう言って村長は自らの部屋へと戻って行った。わたしは慌ててレオンの元へと駆け寄る。苦しそうに咳き込む彼の背中をさするも、顔を覗き込めば「平気だ」とレオンは1人で立ち上がった。

「同じ血…」

静かな廊下に、落ち着いたテノールの声が響いた。その発言でふと思い出したけど、そう言えばわたしの体にはプラーガの幼体を埋め込まれているんだろうか。一緒にあの場に居合わせてたってことはこの体にももしかしたら?なんて考えたら少し怖くなって、自身の胸元に手を添えて目を瞑った。

「どうした名前?」

「や、や、なんでもない」

「?ならいい。怪我はしてないか」

「わたしは大丈夫、それよりレオンは平気?」

「平気だ。この村で変な奴らに好まれてばかりで参っているがな」

レオンは鼻で笑いながら無線通信機を取り出す。いつものようにわたしと電話をかわってくれるだろうと期待の意味を込めてハニガンと連絡を取る彼を見つめていたものの、無線通信機はわたしの手に渡されることなくレオンの懐にしまわれてしまった。

「教会へ急ぐ」

「…うん!」

「アシュリーを見つけたらいくらでもハニガンと話せばいい」

しょぼんとしていたのを読み取られたらしく、毎度のごとく頭をぽんぽんされた。ゲンキンなわたしはもちろんあっという間にご機嫌。レオンはわたしの扱いがどんどん巧みになっていく。あやされている気がしなくもない。というかわたし、こんなことでしょぼくれて甘えてる場合じゃないだろう。しっかりしなくちゃ。レオンは此処に遊びに来てるわけじゃない。だってアシュリーの命がかかってるんだもの。わたしは自身で両頬を叩き、気合いを入れた。

「どうした?」

「気合いを入れたの!さ、早く行こう!」

サドラーと村長の絵が飾られた額縁にそれぞれ拳を一発ずつお見舞いした後、心配するレオンの腕を引っ張り長い廊下を抜けた。そのまま1階へ向かい、部屋の中を隅々まで探索。レオンがタイプライターをいじっている間にトイレへ行き、持たされていたショットガンを構えた。

「ガナードちゃん覚悟!」

がたんと勢い良く扉を開けていざ出陣!射撃、…しようとしたら、人っ子1人いらっしゃらないなんとも閑静な厠。あれ、確か此処にガナードが1人居たはずなのに。

「名前、背中がお留守だ」

レオンの声が聞こえたのと同時に真後ろで銃声が鳴り響いた。まさか、と振り返れば頭から血を流して倒れ込むガナードの姿。銃を指でくるくると回しながら「あまり1人で行動するな」とトイレへ入って行くレオン。わたしはその場でぽかんと立ち尽くしたまま、構えていたショットガンをそっと下ろした。

「……これから用を足すんだが、名前は見学か?」

「し、し、失礼致しましたたた!?」
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