「絶対絶対こっち見ないでね!」

「それは一緒に入りたいとあれほどせがんできた奴が言う台詞か…?」

「う……」

図星を突きつけられてふてくされたわたしは、ぷくぷくとドラム缶に浸されたお湯に口元を埋めた。此処に来てから、初めてのきちんとしたお風呂。久し振りの暖かいお湯に全身が癒えていき、体も喜んでいるみたい。レオンが使われていないドラム缶にろ過した川の水を注いで、拾い集めた木材にマッチを使って火を焚いてくれた。簡易なお風呂だけど、わたしにとっては十分なくらいに気持ちが良い。温泉気分が味わえた。一方レオンはというと恐らくドラム缶の後ろで腰を下ろしているはず。お風呂入っている間に敵が現れたら大変だもの。

「湯加減はどうだ?」

「お陰様で良好です」

「今から俺も入るぞ」

「え、…え?!ちょ!ちょ!だめ!だめだめだめだめ!」

「…冗談だ」

「な、な、な…!!」

「そんなに入って欲しかったのか?」

「レオンのばか!変態!」

くくく、と笑いを堪える様子のレオンに思い切りお湯をかけてやった。相も変わらず口巧者なレオンには勝てませんわたし。さて逆上せない程度にもう少ししたら出ようかなあ、なんてドラム缶の中で立ち上がろうとした瞬間、遠くの方から白い物体が物凄い速さでこちらに向かってくるではないか。せっかく暖まってきた体がみるみる内に血の気が引いて行く。

「レオン!レオン!なんか来た、なんか来たよレオン!」

「何だと」

わたしは軽く身構えながら近付いてくる白い物体からずっと目を離さないでいた。レオンが遠方に向かって冷静に銃を構える。そしてドラム缶から出たわたしにジャケットを被せてくれて「湯冷めしないよう今の内に着替えておけ」と告げた。裸のままジャケットを羽織り慌てて制服を手にしようとした瞬間、何者かによって地面に押し倒された。景色が反転する。まさか…レオンが…!?わたしの裸に理性がぷっつんして襲ってきたんじゃ…!?錯乱したわたしは目を瞑ったまま兎に角大声で叫んぶ。

「レオンだめ!嬉しいけど今はそんなことしてる場合じゃないよ!」

「何言ってるんだ名前」

「………え」

あまりにも冷静な返答に目を開ければ、わたしの上には先程のあの白い物体―いつか罠から助けてあげた白い犬ことポチが息を荒くし乗っかっていた。ほんの少し離れた場所では銃をしまうレオンの姿。なんて恥ずかしい勘違いをしてるんだわたしは、と顔が熱くなるのをひしひしと感じながら頭を抱えた。ポチはそんなわたしの心情等お構いなしに無邪気に頬をペロペロしてくる。自意識過剰な妄想でやらかした恥ずかしさで若干泣きそうになりながらもとりあえずポチの頭を撫で、体を起こした。

「ポチ待ってね、いま着替えたらかまってあげるから」

「俺がお前を襲ったとでも思ったのか?」

「う、」

「しかも嬉しいけど、とか聞こえたんだが」

「そ、そ、そ、空耳だよ!」

「ほう」

「て、いうかこっち見ないでよレオンの変態!」

「見て欲しかったんじゃなかったのか?」

「〜〜っ、ポチ!もうレオンに噛みついちゃえ!」

ワン!と忠犬ポチはわたしが指示するままにレオンの手にがぶりと軽く噛み付いた。顔をしかめるレオンから目を逸らし、その間にわたしはいそいそと制服に着替える。ポチは本当にいい子なのだ、お手っていうとちゃんとお手する。着替え終わったらポチをいっぱいいっぱい撫でて、ご褒美に餌をあげなくちゃ。そして今日はもうレオンと絶対絶対ぜっっったい口きいてあげないんだから!ちくせう!

(…単に勘違いした自分が悪いんだけどね!)










bath time
(体は休憩、心臓は多忙)
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