「名前の胸のサイズって…」
「ルイス黙れ」
「プーさんの変態」
「とか言ってよ、レオンこそ気になるだろ」
「別に」
止まらないレオンの舌打ちとルイスからのセクハラに半笑いで耐えていると、ぴたりと2人の会話が止んだ。しんとした部屋に、足音と斧のようなものが床を引きずる音だけが響く。ようやく血だらけのガナードが現れたのだろうか。わたしだけひとり丁度出口とは反対側に座って死角になっており、状況が全くわからない。でもゲームの進み具合から言ってそのイベントに間違いはないだろう。とは言え、実際に直面するとじわりじわり恐怖心がこんにちは。
「なに、え、ねえ、ふたりとも!」
「おいおい…なんとかしろよレオン!元警官だろ!」
「お前もな」
「ふたりともーっっ」
「おい名前暴れんなっ」
「名前、ルイス、俺が合図したら…」
そう言ってレオンは静かに耳を打つ。わたしとルイスが頷いたのを確認すれば「今だ」と掛け声。室内で斧が鉄を切断する嫌な音が響き渡り、それと同時にわたしたちは3方向に転がり散った。どうやら無事に手錠が取れたらしい。すぐさま振り返ると、レオンが思い切りガナードを蹴飛ばしていた。流石の反射神経。ぽかんと呆気に取られるわたしとは裏腹に、ルイスは立ち上がるなりへっぴり腰でそそくさと逃げて行く。
「ったく。あいつ…逃げ足だけは早いな」
「だね」
「名前、手首」
「ん?あ、大丈夫」
「見せてみろ」
「大丈夫っ」
「いいから」
「う…」
渋々そろり。わたしがレオンに差し出した手は、さっきの手錠のせいで少しだけ赤くなっている。じんじんと痛むけれど、程度は軽い。ちらりと見上げると、レオンは少し悔しそうに目を細め、わたしの手を優しく握った。
「悪い」
「えっ…レオン悪くない!」
「もう傷つけはさせない」
そう言って手を引っ張られ、レオンの胸に収められた。割れ物のように、大事なもののように、優しく。言葉が出ない。ラッキーだとか萌えだとかいつもなら思うのに。胸がきゅうって熱く、苦しくなるだけ。わたしもそっと背中に腕をまわし、レオンの存在を確かめるように抱き締めた。
「ありがとう、レオン」
あなたのこの体温も
わたしのこの鼓動も
夢だとは思えない
否、
夢だとは思いたくないのかもしれない