大統領の娘が謎の集団に拉致された。直ちに救助するのが今回の俺の任務。娘を見掛けた情報のある村には潜入出来たものの、村人達の様子がどうにも可笑しい。6年前をふと思い出すが、奴らはゾンビとは違う気もする。そんな中出逢ったのが名前。迷子、日本人、学生、…単純思考、それくらいしか彼女についてはまだ知らない。未だに謎の多い少女だ。この村から脱出する同行者となったことだけは確かだが。

「鍵か」

入ろうとしていた建物の扉には、頑丈そうな南京錠が備え付けられていた。けれどそれは思っていたよりは古く年季が入っており、何度か蹴っていれば開きそうな脆さだ。

「おーい、誰かいますかあ」

コンコン、のん気に扉をノックする名前には思わず目を丸くした。やっぱり不思議な奴だ。怖がったり震えたり、すぐ泣きそうになるくせに、変な所で肝は据わっている。

「離れてろ」

はあいと素直に離れる名前を見届け、数回扉を蹴った。軋む音と共に開かれた扉を潜り抜けると、後ろから「またどや顔してる」と小さく呟かれた声が届く。聞こえてるけどな。反応はせずに聞き流しながら弾を補充し、銃を構え建物内へ侵入した。

「うえ、ほこりっぽ…」

けふけふとカーディガンの袖で口元をおさえ、咳をしている名前の言葉には同意してひとつ頷いた。弾を拾い、仕掛けられている罠を事前に壊しながら先へと進む。が、特に何も目立つような物は無い。ただの部屋。

「ねねレオン、この棚押せそうだよ」

「…ん?」

裾を引っ張り、これこれと指をさす名前。押して何の意味が?と半信半疑のまま、騙されたと思って棚をスライドするように押し始める。押していくと、その先に部屋が見えた。隠し扉か?名前は変なところで勘がいい。頭がいいんだか悪いんだか。…まぁそこが面白いんだけどな。

(…なんだこの音)

部屋の先へと進んで行くと、隅に置かれているクローゼットのようなものが音を立ててしきりに揺れている。中に人でも閉じ込められているのだろうか。名前を背に隠し、いつでも発砲出来る状態で戸を開けた。

「〜〜っ」

中から、倒れるようにして長髪の男が転がり落ちてきた。両腕は後ろで縛られ、口元にはガムテープ、―見たところ敵では無さそうだ。

「レオン、助けてあげよ」

名前の言葉にあぁと頷き、口元のガムテープを思い切り剥がしてやった。解放された男の口からは「おい、ゆっくり剥がせよ」と文句が聞こえたが気にせず転がし、両腕を縛っていた縄を解く。後ろからも名前の「うわ痛そ…!」なんて声も届いたが、聞き流した。

「あんたらは奴らとは違うのかい?」

「お前はどうなんだ」

「ちょっとその前に一つ大事なことを聞かせてくれ。…煙草ある?」

「…ガムなら」

「飴ちゃんならある!」

名前だけでなく、また変な奴と遭遇しちまった。面倒なことにならなきゃいいが。2人には気付かれないよう、小さく溜め息を零した。
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