呼吸がようやく落ち着いて整った頃、それを見計らってからレオンが「そろそろ行くか」と立ち上がった。同じようにわたしも後に続いて、スカートについた土を払い除けながら立ち上がる。
「あの程度で呼吸を乱さないように今度名前を鍛えてやらなきゃな」
「遠慮しときます」
「遠慮することはない」
「いや遠慮したいです」
攻防戦を張りながらもすこし暗がりのトンネルの中へと進んで行く。天井には何故か貼り付けられているスピネルたち。宝石沢山あるよと言いながら頭上を指差し、レオンの銃口を誘導した。
「スピネルはいくつか持っているが、一体何に使えばいいんだ?」
(商人に売ればいいんです)
と言える訳もなく、とりあえずわからないと小首を傾げて流しておいた。トンネルの出口へ辿り着くと、またも不気味な標識。
「またこれだねえ…」
「…だな」
「この髑髏……」
「名前伏せろ!」
突然指示され、直ぐに頭を抱えてしゃがみこんだ。わたしの瞬発力、徐々に上がってきてる気がする。だんだんこっちの世界に慣れてきたってことなのだろうか。嬉しいような嬉しくないような、複雑な心境である。微かに聞こえた爆発音には、ついにダイナマイト投げてくるガナード登場か、と小さな溜め息が漏れた。
「名前は此処で待機しててくれ、厄介な奴らを片付けてくる」
「ふっ…お!う、うん!」
小声で耳打ちされ、思わずにやけたとか内緒。既に言ってるけど内緒は内緒。不意打ちで耳が溶けるかと思った。わたしが片耳を手でおさえながらひとりで悶えている間にも、レオンは順調にガナードを倒してゆく。そのまま右側へと回り込み、木造の建物の中へと飛び込んで行ってしまった。確か至る所に罠が仕掛けられているのに、ひとつにも引っ掛からないレオンはやっぱりかっこいい。うむ。
「………」
トンネルの陰に身を潜めていたものの、正直何もすることがない。でも黙って待っていられるほどわたしもいい子じゃない訳でありまして。居てもたっても居られず、足音たてずに抜き足差し足忍び足で左側に建てられた小屋へと入って行った。
「こんな罠には引っ掛からないもんねー…だ」
何故なら、ゲームの中で何度も引っ掛かってようやく学習したから。にやりと笑いながら、ライン爆薬の下を赤ちゃんのようにハイハイして潜り抜けた。立ち上がり、アイテム入りの某木箱を目の前にするも、レオンのようにナイフを持ち歩いている訳でもないわたしが容易に木箱を壊せるはずが無い。早速困った。
(…んー、どうしよう)
ぬん!と叩いたり壁にぶつけてみたり踏んづけたり床に落としてみたり。様々な方法を試みるも、うんともすんとも言わない鋼鉄の木箱。ちくせう、悔しい。コレをナイフたった一振りで破壊するレオンは一体何者なんだ、と。
「名前!」
遠くからレオンのわたしを呼ぶ声が聞こえる。恐らく見つけたガナードたちをもう倒し終えたのだろう。早く向かわなくちゃいけない、でも此処にはまだアイテムが、!
「こうなったら…!」
意を決し、木箱を腕に抱えながらトラバサミに気を付けながら小屋を後にした。
「レオン!」
「あっちに建物を見つけた、今から其処へ侵入する。…ところで。なんだその重そうな荷物は」
「………えと、わたしの力じゃあの、えへ、壊せなくて」
「ほう、それで丸ごとか」
鼻で笑いながらもレオンはわたしの手元から木箱を取り上げると、思い切りそれを地面に落とした。その衝撃で開いた小さな穴からころん、と転がり出てきたスピネル。それを拾ったレオンは、満足げにわたしと視線を合わせた。
「出たどや顔」
「黙れ」
「すみませんでした」