レオンの背中を追いかけながら前へ前へと道なりに走っていた最中、わたしの頬にぽたりと一粒のしずくが落ちてきた。

「わ、雨だ…!」

「この程度なら平気だろう」

そうレオンが発言して、わたしが灰色の曇を見上げながら小さく頷いた直後。小降り雨だったはずの空から、バケツに溜めていた水をいっきにひっくり返したかのような大粒の雨たちが降ってきた。

「ぬぇ!?なにこの雨!い、痛っ…痛い!レオン!」

「少し走るか。あの小屋まで我慢してくれ」

そう言いながら自分の着ていた皮のボンバージャケットを脱ぐなり、わたしの頭にふわりと被せてくれた。頭へダイレクトにあたっていた雨の強さがジャケットによって緩和され、わたしは頬を緩めながら小さく「ありがとう」と呟く。そのままわたしたちは雨宿りをしようと近くの小屋へと駆け込み、窓から雨粒で強く打ちつけられている地面を見つめた。

「にしてもすごい量だな」

「ねー、びちょびちょ」

笑いながらカーディガンの裾を絞ると大量の水分がぼたぼたと絞り出され、床にいくつかの染みを作っていく。小さな水溜まりの出来た床を見て、思わずこれは雑巾ですかと問いたくなる程。ちらり、レオンへと視線を移せば、裸―…

「は、はだかぁあ?!」

「…煩い、裸の何が悪い」

「いや嬉…げふん、風邪ひいちゃうよ」

「このままで居る方が風邪ひくだろ」

脱いだインナーをテーブルに放り、辺りの家具を物色し始めるレオン。ぴたりと衣服が肌に纏わりつく不快感には、確かにレオンの言うことも一理あるかもしれないと感じた。けど考えてもみよう、同じ屋根の下に男女2人きりな訳で。加えて裸。変なこと考えてしまったりして危険ではないか。主にわたしが。

それにしても、鍛えてるだけあっていい感じに引き締まっている体だのう…。しかもブロンドヘアが雨に濡れて、ますます色気が増してらっしゃる。雨も滴るいい男の代名詞ですな。むふふ。

「名前、鼻が伸びてるぞ」

「はっ…!!」

いかんいかん、見とれてしまった。わたしは変態か。変態だ。両頬をぱんぱん叩き、しっかりしろ理性を保てと自らに釘を刺した。

「これで拭け」

「え、これ勝手に使っていいのかな」

ジャケットをぎゅっと抱き締めながら、差し出されたタオルをおずおずと受け取った。いいんじゃないか、と無責任なことを言うレオンはあまりにも普通に髪を拭いている。

「怒られたらレオンの所為だからね」

「はいはい」

レオンはわたしの忠告をまるであしらうかのように適当に受け流し、笑いながらわたしの頭をタオルでわしわし拭き始めた。なんとなくこの光景は、ご主人様にお世話される犬を彷彿とさせる。

「まるで犬だな」

「わたしも今それ思った」

「任務が終わったら、此処に付けなきゃな」

「ほへ?」

「きっと似合うだろ」

「似合う?」

「チョーカー。…首輪としてな」

レオンの綺麗な人差し指がツツツ、と首筋を伝う。な、なななんだこの乙女ゲーのような展開。おいしいです。「今日はサービス精神旺盛ですね」なんてにやけ顔で問うたら、ばーかと言わんばかりに頭を小突かれた。なにこの幸せ。レオンからプレゼントを貰える日が来るかもしれないのか、わくてか。

「そろそろ晴れてきたな」

「わ、ほんと!」

なんてやりとりをしてるうちにいつの間にか雨音も止み、窓の外にあった水溜まりには清々しく広がる青空が鮮明に映っていた。レオンは逞しく眩しい上半身を露にしたまま古びた暖炉の前で屈み、取り出したライターで火を灯そうとしている。やだセクシー。

「少し暖を取ったら出るか」

「うん!」










rain drop
(雨粒のいたずら)
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