「なんか、レオン臭いんだけど」

「あぁ、これか」

鼻をつまむわたしに見せてくれたのは汚くて腐臭を漂わせる宝石。これはもしや…レオンもしかしてそのまま撃ち落としちゃったのかあああ、板を落とさなかったのかあああ、なんてわたしは軽く落胆。値下がりしちゃうよ!…と、今告げたところでどうせレオンはちんぷんかんぷんだろう。青いコインもちゃんと撃ち落としてるのかなあ。少し心配だ。ゲームと違ってコンテニューもロードもやり直しも出来ないし(いや出来るのか?)、全て完璧な状態で進んでるわけでもないし、お荷物(わたし)いるし。一瞬一瞬を本気で生きていかねば。

「あ、看板」

「…悪趣味」

薄気味悪い髑髏のぶら下がっている看板を目にしてから、はっと思い出した。ここは下り坂、ゲームでは初見殺しで有名な場所。気にせず降りて行くレオンの横で後ろを警戒しながら歩いた。ガナードが崖から見えたら走り出す、よしシュミレーションは完璧。自分に暗示を幾度か掛けた直後、ガナードたちが崖に現れた。すかさずわたしはレオンの腕を揺さぶり、走り出す。

「レオン走って!!」

「は?」

「いいから!」

頭に疑問符を浮かべたままのレオンを急かして走らせたものの、あんり意味がなかったことを思い知る。急かさずともレオンはやっぱり足が速かったから。鍛えてるし性別も違うし、当たり前か。ようやく巨大な岩が崖から転がって来てることに気付いたレオンは、わたしの腕を思い切り引っ張って走り出す。その甲斐あってか、わたしたちはなんとか岩から逃げ切ることが出来た。

「はぁ、ありが…はぁ、と、はぁ」

「危うくサンドイッチになるところだったな」

体力のないわたしはぺたんとその場に座り込み、ぜぇはぁぜぇはぁと肩で息をした。毎日ゲームばかりやってたから運動能力が低下したのだろうか。同じ距離を走ったのに、まるで正反対のわたしたち。虫の息状態のわたしとは裏腹に、レオンは汗ひとつかかず清々しい表情。こんなのチートだ。

「少し休むか?」

「…っはぁ、大丈夫っ」

「なら俺が休みたいから1分休憩」

そう言って座るわたしの隣に腰を下ろした。どこからどう見ても疲れてるようには見えない。くそう、どこまでイケメンなんだこの人は。

「ガムいるか?」

「いる…」

「そう言えば名前は何故あんなところで迷子になってたんだ?」

「えっと…」

なんて言うのが1番いいんだろう、わたしが口を噤んで俯くと、頭に手のひらを置かれた。

「無理には聞かない」

「無理じゃない、んだけど」

「なら全て事が片付いたときにでも話してくれ」

「……うん」

もらったガムを口に含むと、口いっぱいに爽やかなミントの味が広がった。全て終わった時、わたしはこの世界にいるのかな。この夢が途中で覚めてしまったりしないかな。レオンの傍に、まだいたいなあ。

「……まだ大丈夫」

そう、小さな声で自分に言い聞かせた。
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