憂鬱非日常


朝は6時半に起きて、洗顔・朝食ともにゆっくり済ませ、バッグの中身を確認しながらテレビで今日の運勢を確認し、だらだらと制服に腕を通す。
そしてHR開始5分前に学校に着くように家を出る。
登校中は今読み途中の小説を片手に、小鳥のさえずりを聞き流しながら右側通行で住宅街を歩く。
昼休みになったら母手製の弁当を開け、それが案外友人に人気なものでおかず交換をしながら黙々と食べる。
放課後になると、友達との会話も程ほどに家へ帰り、約2時間後の塾に間に合うように宿題を済ませる。それは大体30分で終わり、ベッドに横になりながら携帯で塾の友達と待ち合わせの約束をし、勉強しやすそうな服をチョイスしながらクローゼットを漁る。
着替え終えたらバッグに、参考書と問題集にノート、筆記用具、財布を無造作に放り込み、ファスナーを閉めながら階段を下る(運の悪い日なら滑って尻から床とこんにちは)。リビングに駆け込めば夕飯の準備は「もうすぐで終わる!」という具合。バッグを机の下に滑り込ませて、置いてある箸を手に取り片っ端から食べつくす。
食べ終わったらブレスウォッシュ系の菓子を口に放り込んで待ち合わせ場所に直行、既に待っていた友達に本気で謝りながら自転車を漕いで塾付近の駐輪場へ向かう。

塾が終わればそそくさと先生たちの間を縫うように抜け、近くのコンビニへ駆け込みやっとのこと飲料にありつく。
これが私の日常、変わらぬ日常。

でも、今日の私は日常から外れた生を送った。

まず、朝6時半には起きなかった。否、起きれなかった。理由は目覚まし時計の故障。遅れに遅れて、鳴ったのはなんと7時半。
朝食は食べずに洗顔だけして、制服も3分で着替え、本なぞ持たずにバッグだけを引っつかみ通学路を駆け出す。
結局学校には間に合わず、校門前に立っていた風紀委員にブラックリストに入れられ、そろそろと教室に入ったつもりが生徒と教師にガン見される。若干顔を赤くしながら「遅れました」と呟いて席に座って息を整える。
昼休みになって萎んだ腹に手を当てながらバッグを漁るが、弁当を忘れたことを発覚。ショックすぎて石化した私を慰めるように隣の男子が(気の毒そうな目で)余りのパンをくれた。
放課後には今日遅刻した反省文を書かされるとともに、担任に科学で使う道具の入ったダンボール×4を実験室に運ばされたので、人生最大の殺気を込めた目で睨んだ。
家に帰れば塾まであと30分、5件以上のメールを送ってきていた友達への謝罪のメールに「今日は一緒にいけない」の言葉を入れて返信、そのままバッグに放り込んで問題集等をむんずと掴みながら階段を下る。
夕飯は食べずに「行ってきます!」と叫んで家を出て自転車に飛び込み、今までに無い全速力でタイヤを回す。
塾にはぎりぎりで着き、流れる汗を手の甲で押し拭き、バッグの中を確認する、と。
筆記用具を忘れていた。
ひく、と口元が歪み、眉間にしわが寄った。

そう、つまり今日は厄日だった。
朝も時間が無かったから占いを見れなかったからまだ分からないが、多分今日の運勢は最悪だっただろう。

先ほどから空腹を訴えてくる自身の腹にかなり苛つく。もちろん、そのせいで正常に機能しない脳にもだ。
今日はこんな嫌な事が立て続けに起こったんだ、それなりの見返しはあるんだろうな――。
人生そう上手くは行かない、と分かっていても思ってしまった。

やっとのこと塾が終われば、ここはいつもの通り素早く抜けることができた。
背後で生徒と比較的若い先生達がわいわいと騒いでいる。
私は、あの集団が若干苦手でいた。私たちはもう受験生で、夏休みも終わったのだから本格的に勉強をすべきだというのに、何故あの人たちはああ陽気でいられるのだろうか、不思議に思う。
先生も先生だ、授業が終わったんならさっさと帰って復習しろよ、の一言ぐらい言えばいいものを。

コンビニへと向かう足取りはいつもより早い。今日は飲み物だけでなく軽食でも一緒に買おうか。そんなことを考えていた。
腹が鳴らないように手で押さえる。心配そうにそれを見ながら変わらぬペースで歩いた。

ら、

「いてっ」
『わっ』

曲がり角で誰かにぶつかるというベタな展開。しかも相手が男というベッタベタな雰囲気。でもそこには甘い雰囲気など無い。あるのはどんよりした、黒に近いグレーな空気だけ(多分全部私のものだ)。

『ごめんなさい…』
今のは明らかに自分のせいだろう、下を向いて早歩きしていたのだから。
ぱっとぶつかった相手を見るが暗くてよく見えない。だが、服装から察するに恐らく若干若い年代の人だろう。
酷い人だったら嫌だな、そう思っていた。

「いや、こっちこそ悪いな」

少し、いや結構意外な答え。よく見れば刺青までしてあるその腕は、はたから見ればそう良い雰囲気はないだろう。でも、こっちが謝れば謝り返してくれた彼は根がいい人なのだろう。

『いえ、私が悪いので。すみません』
「謝んねえでいいって。ぶつかったのは少なからず俺のせいでもあるだろ」

今日が厄日だったからか、この人の言葉が酷く心にしみる。なんていい人なんだろう!

「あ、俺急いでるんだった。悪かったな、引き止めて」
『いっいえそんな…!』

「それじゃあな!」

薄暗い街灯の下、一瞬見えた金髪の彼の笑顔は、今は新月だが満月も敵わない輝きを誇っていた、それは私の錯覚ではないはずだ。


『また、会いたいなぁ…』
一人その場に立ち留まっていた私から漏れた一言は、そんなベタベタな言葉だった。



fin.
終わりました、終わらせました←
予想以上に長くなってしまったorz
6000打、感謝です!!

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