07 ガーネット王国
ヒスイがキッド海賊団の一員になって数週間が経った。それまでにいくつかの島を訪れたり、時には海軍や他の海賊団と戦闘することもあったが、死者は出ずなかなか平和だった。たまに怪我人が出る事もあったが、その時はヒスイの風の炎で再生スピードを速めたためすぐに治り、事なきを得た。
そんなこんなで今では船に馴染んでいて、一部の船員はヒスイを尊敬するまでとなった。
「次の島にはあとどれくらいで着くんだ?」
よく晴れた日の朝、キッドは新聞を読みながらキラーにそう聞いた。
新聞の記事に出ているのは、我らがキッド海賊団。前回攻撃をしかけてきた海軍を返り討ちにしたのだが、その船には海軍大佐も乗っていたらしい。難なく撃退できた為、内心「ちょろいな」とか思っていたので驚きだ。
写真に出ているのは前線で暴れるキッドとキラー、高所から敵を狙い撃ちするヒスイ、向かってくる敵を火で倒すドレッド。総賞金額(トータルパウンティ)は上がる一方で、海軍にも目をつけられ始めた。
「陽が沈む頃には着くだろう。島には王国があるから物品補充には苦労しなさそうだ」
「ほう、何て国だ?」
キラーの言葉に興味を持ったらしいキッドが聞いた。ここ1週間は島に立ち寄っていない為、食料に不足が出てきたところだった。いいタイミングで島があってよかった。
「ガーネット王国だ。歴史は浅いが流通は多いな。成立して200年も経ってないから海軍の監視も薄い、俺たちにとっては都合がいいな」
「海軍の監視がないだと?そんなんで大丈夫なのか」
海賊が島の心配をするなんて変な話だが、確かに皆そう思うだろう。海軍の監視が薄いということは、犯罪が裏で沢山起こっているのかもしれないのだ。
「それがガーネットの国民は特殊な能力を持っているらしくてな。もちろん犯罪を起こそうと海賊が立ち寄った時もあったが、その度にいつのまにか"戻ってる"らしい」
「戻ってる?」
「そうだ。戻ってる。船のある港にな」
用事が終わっていないのに、港に戻る。それは聞けばかなり特異なことだ。けれどヒスイには心当たりがあった。
「もしかして、風が関係してたりする?」
私が口を挟むと、キラーはバッと私を見た。仮面で顔は見えないが、その仕草では驚いているようだ。
「ああ。…街に攻撃を仕掛ける際、必ず突風が吹くのだそうだ。思わず目を閉じて、風がやんで目を開けると港に居る。…どうしてそれを知っているんだ?」
「ちょっとね…。キッド、」
「ああ。ビンゴだな」
それまで黙っていたキッドがニヤリと笑みをこぼした。そう、私とキッドは、港に戻るという現象を"風のリング"が関係していると踏んだ。そして案の定、現象が起こるときは必ず"突風"が吹く。
「ビンゴ?どういうことだ」
「つまりね、キラー。私のこのリングと同種のものがその島にあるんだよ」
こう言えばキラーはピンと来たようで、ぴたりと動きが止まった。目線は私の胸元にあるリングへ向かっている。
これまでの戦闘で何度かリングを使ったことがあった。その場面は勿論船員にも見られているし、皆驚いたり感動したりで注目を浴びたのも記憶に新しい。軽く説明はしてあるが(この手のリングには力が込められていることと、世界中に存在していることなど)、詳しく知っているのはキッドだけだった。
「確か、お前はその手のリングを探しているのだと言ったな。つまりガーネットにリングがあると?」
「間違いない。いくら"ただの"突風が吹いたとしても、まさか間にある建物を通り越して港に戻ったりなんかしないでしょ?つまりそれは"ただの"突風ではなく、リングから発生した"特殊な"突風なんだよ。…キッド、何睨んでるの」
キラーもくいっと顔を上げた。彼は私の胸元のリングをジーッと見ていたため、キッドの異変に気づかなかったのだ。
私が聞けば、キッドはキラーを睨みつけながら怒鳴った。
「いつまでも女の胸を見てんじゃねぇっ!!」
bkm