次の日の朝。私はいつも通り登校すると、友達が変な顔しながら走ってきた。
曰く、"とても心配した"らしい。
「あのあと分かれてから言ってたんだけどさ、零果と一緒の方向に帰った奴ね、昔から女癖激しくて、裏表あるやつだって聞いて…」
一昨日合コンに誘ってきた子が話し出した。周りにいる子達は皆この話を聞いたのか、ウンウンと頷いている。
『なる…納得したよ』
「納得って…何かされたの!?」
『キスされかけた』
言えば、エエエエエーーッ!と叫び声をあげられた。
「そ、それでっ!?」
聞いてくる子達は、もはや心配というよりは興味津々、という方が正しい感じだった。
『…まあ、助けられた』
「誰に!?」
「もしかしてこの間の人!?」
図星を突かれ、私がビクッと反応したからか、皆興奮したように目を輝かせた。
『うん。まあ、そう…』
「ひゅーっ!」
私が言い終わるか終わらないかで歓声を上げられ、それにつられてか他の人たちも集まりだした。
それに皆でまた説明し始めて、それはもう…今日中には噂が広がるだろうな、とため息を吐いたのだった。
でも嫌な気がしないのは…相手が垣根だからか。
困った顔をしながらも微笑んでみせると、友達皆から「おめでとうっ!!」と祝福を頂いた。まだ付き合ってるだなんて言ってないのにね。でも、こんなのも良いかもしれない。
さあ、もうすぐで授業が始まるから、準備しないと。
未だに騒いでるクラスメイトたちをよそに、私はそそくさと席に着いたのだった。
「よ」
『…吃驚した…』
放課後の話だ。私はいつもの帰りメンバーで校門をくぐると、そこには話題の垣根がいたのだ。
彼を見つけた瞬間、友達は皆でヒューヒューいってはやし立てている。ものすごく注目を浴びていて恥ずかしい。
「じゃっ!私たち先帰ってるね〜」
『は?えっちょっと』
「リア充は幸せであるべきなのよ」
『意味が分からない』
「いいから行ってきなさい!」
友人のひとりに背中を押され、垣根に突っ込んでしまった。…不覚だ。
ちゃっかり綺麗に受け止めちゃってるのがツボに嵌ったのか、友達は叫び声を上げながら帰っていった。
『…なんか、ごめん』
「いや」
にやつきながら返事をされ、私は照れるしかできなかった。
手をつないでブラブラと歩く。行く当てもなく、大方どっかお店にでも行くのだろう。
これが、放課後デートというやつなのか。…今まで彼氏はいてもやったことはなかった。
そっと、やや前を歩く垣根を見た。顔は見えないが、サラサラな髪の間からのぞく耳がほんのり赤いのを見て、同時に愛しさがこみ上げてきた。
『好き』
何故このタイミングで言ったのかは不明。でも今の垣根には大ダメージだったらしく、バッと勢い良く振り返った垣根は柄にもなく慌てている。
「なっ、ちょっバ…!何で今!?」
『なんとなく』
こんなに慌てるなんて思わなかった。これはなかなか貴重だ。今まで余裕そうな姿しか見てなかったからか、今は自分が主導権を握っているように感じた。口元が上がるのは仕方ない。
というか、今まで余裕ぶっこいでたのに、押しに弱いとか…顔に似合わなすぎだろ。つくづく分からない男だ。
私がニヤついてるのを見、からかわれていると勘違いしたのか、ムスッとした。
「そういうのは俺が言うもんだろ」
『じゃ、もう言わないね』
「は!?いやそういう意味じゃなくて…」
言い終わらないうちに私は垣根の居た所を一気に抜かし、数メートル先で止まった。
垣根は何が起こったのか分からない顔をしていたが、すぐハッとした顔をした。
『捕まえてごらんよ〜』
「なっテメッ…!」
ベーッと。わざわざ舌まで出してポーズをとってから走ったからか、垣根は人間業とは思えない速さで追いかけてきた。
私といえば能力を発揮させて全力疾走。その後ろをこれまた凄まじいスピードで追いかける垣根。
そういえば、初めて会った時もこんな感じだったか。私が垣根を挑発して、垣根がそれにキレて、鬼ごっこ。違うといえばお互いの心境か。
あの時は焦りが強かったが、今は楽しいという思いしかない。
―まさか垣根と恋仲になるとは思わなかったな。出会いが最悪だったから。
本当、意味不明だな。垣根も、私も。
考えながら私の顔が緩むのは仕方がない。こんなに楽しいのは久しぶりだから。
「零果ーッ!!」
…いや、違うか。久しぶりなんかじゃないな。
今思えば、私は垣根と出会ってから毎日が楽しかったような気がする。
流石に一昨日は嫌な日だったが、垣根が助けてくれたからプラマイゼロ。むしろプラス。
ああ、幸せだと。雲ひとつない空は私の心と比例しているようで。これからの日々に期待を寄せるには十分な晴れやかさだった。
これにて"意味不明"は完結いたします。
にしたって随分と長かった。
…いや、私が更新するの遅かったからなんですけど。
ここまで読んでくれてありがとうございました!
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