「じゃあ盛り上がってこ〜〜!」
「イエーイ!!」
乾杯!の掛け声と共に氷のたくさん入ったグラスを叩き合った。
場所はカラオケ。今日学校で突然、行く予定だった子が休んでしまったため来てほしい!と合コンに誘われたのだ。
あまり気は進まなかったが、頭まで下げられたら断るわけにもいかなく、つい流れに乗って来てしまったのだが。
『………、』
やっぱりこんな騒がしいのは性に合わないようだ。
別に騒ぐのはどうってことない。私だってテンションが上がる時は上がるのだ。でもこんな大人数で、狭っ苦しい部屋に集まって一体どうしろというのか。知らない人と必要以上にくっつくし。噂で聞く、学園都市外の学生や社会人がぎゅうぎゅうまで詰め込む"満員電車"とやらの方がマシな気がした。別に行きたくも無いが。
とにかく、無理にテンション上げようとするのも、必要以上にくっついてくる男子も、嫌だ。
「零果ちゃんていうんだ!よろしくね!」
『うん』
「ていうか良く可愛いって言われない?俺超タイプなんだけど!」
『言われないよ』
「マジ?そんなクールなところもイイ!」
疲れる。非常に疲れる。
私は隣の男に気づかれないように小さくため息を吐き、早く終わらないだろうかと時が過ぎるのを待つのだった。
あれから数時間が経ち、やっとお開きになった私たちは各自家へと帰っていった。
そう、あの苦痛から逃れられると思ったのに。
「いやあ〜マジ偶然だね!」
『…そうだね』
必要以上にくっついてきた、いかにも軽そうなあの男。なんと帰り道が一緒だったらしい。こっちは疲れているにも関わらず未だにくっついてくるコイツの体力は計り知れない。もはや人外だ。
もういっそのことデタラメな道にでも行こうか。それとも急いでると言って走って帰ってしまおうか。いずれにせよこの男とはもう関わる事がないのだから、別に傷ついたって構わないし。
どうやってこの場を切り抜けようかと思案していると、突然男に肩を捉まれた。…痛い。
「あのさあ、最初から思ってたけど、俺の事嫌い?」
はい、そうです。と言ってしまいたい衝動に駆られたが、ここは我慢しなければならない。本当に言ったらもっと面倒な事になりそうだ。
『ううん、そんなことないよ』
妥当な答え、だと思った。でも男は全く納得しておらず、眉間に皺を寄せ始めた。
――ああ、面倒くさい。
「だったらさ、そういうの…態度で示せよ」
気がつくと壁に押し付けられていた。目の前には至近距離に迫った男、左右には逃げられないようにと腕がある。やられた。
どんどん近づいてくる男の顔。態度で示せって、このこと…!?
私は"嫌いではない"と答えたはずだ。"好き"なんて言った覚えは微塵も無い。何を勘違いしているのだろうか、この男は。
駄目だ、逃げられない。一瞬、能力でこの場を逃げようかと考えたが不可能だ。辺りは薄暗くて、下手したら壁に激突することもある。
全然知らない男にキスされるなんてプライドが許さないが、男は近づいてくるばかりだ。
『…っ』
助けて!と心の中で叫んだ、瞬間。
「何してんだよ!」
聞き覚えのある声。急に開けた視界。一瞬何が起こったか分からなかったが、少し離れた地面で倒れながら呻いた男を見て、我に返った。
『か、垣根!?』
「なっ…まさか第二位!?」
「行くぞ」
垣根に腕を掴まれ、私の家の方向に走った。男は追ってこなかった。
まさかこんな漫画みたいな展開、期待はしていたけど、本当に起こるとは思わなかった。
いつの間にか昇っていた月に向かって、夜の都市を駆け抜ける。
丁度夕食時だからか、色々な人がいた。銀のシスターさんとか、金髪のアロハシャツの人とか、真っ白な髪の人とか。そんな人たちに目もくれずに走り続ける垣根。意外と広い背中に驚きながらもスピードは変わらなかった。
「もっと警戒心持てよ…」
私の住むマンションの入り口に着くや否や、垣根は私に振り返ってそう言った。
『…うん、』
そうする。続けようとしたが、言葉には出せなかった。
目の前には垣根の顔しかなく、彼の口で塞がれていたからだ。
すぐに唇は離れたが、今度は強く抱きしめられる。
―――良かった…。小さく呟いたのが聞こえ、私は震える手で彼の背中に手を回した。
銀のシスターさん=禁書目録
金髪のアロハシャツの人=土御門
真っ白な髪の人=一方通行
上条さんがいないのは、彼の風貌が目立たないものだからです(^ω^)←
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