なにさその優しい目は?


恋なんて初めてだ、なんてどっかの少女漫画みたいな展開じゃない。
勿論今まで恋した事だってあったし、それなりに付き合ったりはした。
けど。

『相手が問題なんだよ…』

まさか人生初のナンパ相手にするとは思わないじゃないか?

学校の帰り道、出るのはため息ばかり。こんなドヨンとした空気じゃ、周りからは"たった今フられた可哀想な少女"みたいに見えるだろう。むしろその逆なのだが。
いつもどおりのコンビニに足を踏み入れる。いつもお酒を買っている所だ。
ここの店長とはちょっとした知り合いで、私が何をしようが苦笑いだけで済ませてくれる心優しい人だ。

自動ドアをくぐれば、いらっしゃいませーと声がかかる。レジのバイトの子からだ。
この子とも知り合いで、会計の時はいつも挨拶とかする。
まあそんなことが出来るのも、ここが客少ないからなんだけどね。店長には悪いけど。

その証拠に客は私しかいないようで。足音が聞こえるだけだ。

そういえば前ここに垣根ときた事があったっけ、と思いながらお酒コーナーを覗くと。

「よぉ」
『………』

ぐるりと急転換。180度回転して出口へレッツゴー!しようとするが、やはり相手は学園都市第二位。

「逃げんなよ」

ぐい、と襟を引っ張られて腕を回される。…誰もいないと思ったのに。

『ちょ、何でいるの』

そうは言うものの、今心臓はバックバクだよ。だって、好きな人…にされるとなると。

「お前ならここに来ると思った」
『待ち伏せか』
「悪いか」

ああ、悪いよ。今の私の心境で会いに来られると。

『てゆうかコンビニの中なんだけど』
「離れたきゃ離れればいいだろ」
『そう言いながらもっと近づくのやめてくれない?暑いんだけど』

ああもう、可愛くないな自分。テンパってるからってこれはないよね。チラと上を見上げれば交わる視線。

『な、何さ…』
「いや、抵抗しねぇなーと」
『してほしいの?』

いつの間にかレジにいたバイトの子はいなくなっていて。オイオイ客少ないからってコレでいいのかよ?ってツッコみたくなるけれど。…本当は、垣根と二人きりになりたくないだけ。

「そうとは言ってないだろ」

言いながら、垣根は顎を私の脳天に乗せた。そこまで重くない所、からかっている訳ではないらしい。

いつの間にか、回していただけの腕は組まれていた。
それが自分を逃がさない為にされているのだと思うと、ただでさえ煩い心臓が更に激しく脈打つ。
止まれ、とまれと思ってもそれは勢いを増すばかり。
これだけ激しけりゃ、垣根に気づかれているかもしれない。

「零果…」

自分でも感じるほど火照った顔を上げる。目の前には冷凍食品の置かれた棚があった。そのガラス戸に写る、自分と垣根の姿。
視線を上へ上げていけば、同じく前を見た垣根と目が合った。その顔は反射した光でよく見えなかったが、普段垣根がするような顔じゃなかったことは確かだった。





え、何コレげろ甘?
アルバイトの子は気を利かせてくれたそうです。
ちなみに、店長は親戚関係です。

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