ぷよぷよ教教祖ユキノメカミ様5

明るい部屋は阿鼻叫喚になってしまった。
ぷよぷよさんが泣き叫びながら階段を駆け上がろうとして、足を滑らせて色々なところにぷよぷよをぶつけ、めちゃめちゃになりながら落ちてゆく。
ころせ、ころせ、と、階段を這い上がれない人は男に向かってみんな何かを投げつける準備をしている。
男と一緒にいた女が、いつの間にかこの部屋からいなくなっている。

でも僕はそれに気がつけない。
自分の体の中がどうにかなってしまっているからだ。
こんなのは知らなかった。そういえば、僕は人に触れたことは無い。人の肌がこんなに暖かいだなんて、僕は知らなかった。いや、知っていたのに忘れていたのだ。
ああ、僕は戦で父と母と兄妹を失ったのだ。そうして一人、あの雪原に立っていた。前はそうして遊んでいると、父や母や兄や姉が、僕を探しに来てくれたのに、誰もこない。来るわけが無い。みんな燃えてしまって、あんなに小さく黒くなってしまったのだから。
あの天のように真っ白な世界に行ってしまったのだ。
僕は待っていた。天からみんなが僕を探しにきてくれるのをまっていたのだ。
僕が凍らせてなくしたものは足だけではなかった。足をなくす前に、もっと前に心も凍らせてしまったのだ。
それが、この男の唇一つで溶けてしまいそうになっている。僕はこんなに寂しい、寂しい、人に触れたい、と全身で叫んでしまいそうになっている。
男はいつのまにかボロボロの農作業着から深い緑色の服に着替えて、結い上げていた髷からふさふさの橙色になった髪をなびかせ、ぶるぶると震える僕をさっと抱き上げた。
その手のなんと暖かいこと。

「ひぁ、ん、っく、ひっく、」

「・・・なんだ、まるで子供じゃないか」

トン、と隣に金色の髪の女が立ち、僕の顔を覗き込んでくる。
瞬間、白い肌が桃色に染まるが「っ、・・・っ!フンッ!ほら、行くぞ!」と床を蹴り上げてどこかにいなくなってしまった。

「あはー、ユキノメカミ様、泣き顔も綺麗だからね。かすがにはちょっと刺激が強いかな?」

びゅん、びゅん、と石や矢が飛んでくる中を、男は僕を抱えたまま床を蹴りあげ、そのまま軽々と外へ飛び出した。

ぷよぷよさんと出会って以来、僕は外には出たことがなかった。
なので、外はなんとなくあの真っ白な世界なのだろう、と思っていた。
頬に当たる冷たい風を予期してぐっと小さく身じろいだ僕だったが、しかし、男に抱えられて飛び出た外には、なんという事だろう、濃い緑が茂り、真っ青な空には真っ白な雲がにょきにょきとはえている。
眼下には色鮮やかな花が咲き、じじじ、と小さな虫が飛び回っている。

「ユキノメカミ様、帰りたいって言ってももう帰してあげらんないぜ?ここまできたら、アンタにはあの丸い信徒達を・・・って、うっそ、ちょっと、まったまった!」

「っく、ひっく、ふぇ・・・、」

僕は泣き声を上げるために、大きく息を吸い込んだ。
その空気には湿気と熱気がたっぷり詰まっていて、僕は気持ちがいいくらいに大きな泣き声を上げることが出来た。
ぼろぼろと涙を零す頬が熱い。声を張り上げる喉が痛い。膿んで、腐りかけている足が痛い。
なんでこんな事に気がつかなかったのか、僕はこんなにも生きている。
僕は男にゆらゆらと揺すられ、あやされながらわんわんと泣き声を上げた。
すぐ隣に金色の髪の女が来て、顔を赤らめながらそっと口の中に頬がとろけそうになる食べ物を入れてくれる。
後から後から沸いてくる涙ですぐに視界はぼやけてしまうけれど、見上げた天は真っ青できらめいている。
口の中のおいしいおいしい食べ物と、涙を拭う男の手の温もり、青い空、それらが僕の、最後の凍えを溶かしつくし、僕は本当に、いつぶりかに、にっこりと心の底から笑うことが出来たのだった。
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