くらい穴6

体育の授業中思い切り転んでしまったみつきは幸村に肩を借り、しぶしぶながら誰もいない廊下を保健室に向けて引きずられていた。
体育着のショートパンツから覗く丸出しの膝には幾重にもハンカチが巻かれ、赤い染みを浮かばせている。

「みつき、痛くはないか?!某が付いていながらこのような怪我をさせるとは・・・!誠に申し訳ないっ・・・!」

「大丈夫。そんなに痛くないし。一人でも歩ける」

「駄目にきまっておるだろう!綺麗な足だというのに、下手に動かして痕など残ったらもったいないでござる!」

「・・・ばか」

「男の足が綺麗でも意味がない」とみつきはツンと唇を尖らせるが、今まで殆ど自力で歩いていた体重をそっと幸村にもたれかける。
そうして、自分よりも随分と高いところにある肩につかまっているのは正直歩きにくいのだ、と自分自身に言い訳をすると、腕を回し少し汗ばんだ手で幸村の硬い筋肉に覆われた腰をきゅっと掴んだ。
頬に当たる幸村の胸元から、彼自身の汗の匂いがする。
幸村のこの動物的な匂いはみつきの身体の奥からペニスの先へと、熱い電流のようなものをビュッと走らせるのだ。
気付かれぬよう小さく吐息をこぼすと、心なしか肩を掴む幸村の手にも先ほどより力が強まった気がして、みつきは思わずふるりと腰を震わせ口内にたまった唾液をこくりと飲み込んだ。

自然と黙り込んでしまい、廊下には自分達の足音に、遠くで聞こえる外の音しか響かない。
心地よく、動悸が高まる静けさに、いつまでもこの時間が続けばいいのに、とみつきはうっとりと瞳を蕩けさす。
しかし、いつもは移動するのが面倒くさい程長い廊下なのにあっという間に保健室の前に到着し、がっかりしているみつきの目の前で勢いよくスチールの扉がスライドした。

「旦那、みつきちゃん、随分遅かったねー」

開いたドアの向こうに立っていたのは少し前、幸村と同じように戦国時代に似た別の世界からやってきた猿飛佐助だ。
そのニコニコとした満面の笑みを見せ付けられた途端にみつきの機嫌は急降下し、腰を掴んでいた手をパッと離すと幸村に向き直り「先生もいるから大丈夫。幸村は授業に戻って」と固い声で告げる。

「某も一緒に・・・」

「かまうなって旦那ぁ。みつきちゃんもこう言ってんだからほら、授業に戻った戻った!」

「後は俺様に任せなさいって」と佐助は常よりも固く、無表情になっているようなみつきの肩を抱えると保健室に引きずり込もうとする。

「みつき!・・・その、」

「幸村、大丈夫。また教室で」

表情は先ほどと変わらないものだったが、幸村はその眩しげに顰められた目元と声色でみつきが微笑んでいる事が分かった。

「・・・ああ、また!佐助、みつきを頼む!」

そう言うと幸村は、むん、と気合を入れ雄たけびを上げながら廊下をひた走りにグラウンドを目指す。

「・・・もう、廊下は走るなって何回も言ってるのに」

「ホント、変わってないねー」

あは、と笑った佐助をみつきはちらりと見上げ肩に乗った佐助の手を払うとすたすたと一人保健室に入っていった。
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