くらい穴3

五十鈴みつきは幼少から無愛想な子供だった。
家系からか愛想笑いはされる方だったし、一人でいる方が気が楽で、友達も特に必要としていなかった。
何不自由なくどちらかというと贅沢に生まれ育ち、しかし「何か欲しい物は?何かやりたい事は?」と聞かれれば「特に何も」と応えるしかない、心は貧しい人間だった。
みつきはそんな自分に別に疑問を抱いた事もなかったし、周囲もみつきはそういう人間なのだと理解して、それをそのまま育ててしまった。

そうして、16歳になり祖父に呼ばれた全寮制の男子高等学校に入学し、今までの生活とはまったく異なる寮生活を送ることになったみつきは初めて自分はなんて寂しい人間なのだと知ったのだ。
初めて会う、みつきの家格も何もしらない同年代の少年達とはまったく会話が合わない。
それでもしばらくはなんとかなっていたのだが、決定打となったのは小春日和の休日の、寮の一角にある休憩室での事だった。
性的な話はみつきのもっとも興味がない部類の話で、逆に同年の彼らにはもっとも興味のあることの一つだった。
愛想笑いをした事のないみつきは猥談で盛り上がる少年たちの前で読んでいた本をパンと閉じ「くだらない」とそれを一蹴したのだ。
今までのみつきの生活の中で、みつきは周囲の人の話はたいてい興味がなく聞いていなかったし、みつきはそういう人間だとそれが許されていた。
女性に性を匂わせる話をふられて「くだらない」と言い放っても『みつきさんにはまだお早かったかしら』と微笑まれて終わっていたのに、少年たちは無表情に「くだらない」と言ったみつきを不愉快そうに見つめ、そしてその後、誰もみつきに話しかけなくなった。
無愛想で挨拶もろくにしないみつきを上級の生徒達が薄暗い倉庫に引きずって行くのを見ても、あらら、程度にしか思わなかった。


埃臭い体育用具倉庫に連れ込まれ、みつきは生まれて初めて暴力を受けた。
親から拳骨一つくらった事もないみつきは頬を一つ張られただけで、ただそれだけで足が震えて涙を滲ませた。
本や映画でいくらでも目に、耳にしたことのある暴力は、こんなにも恐ろしく、そして自分は本当はこんなにも無力だったのだと吐き気がする程の激しいショックを受けた。
今まで自分を守ってきたものはやはり家系という七光りで、こんな時に脱せるような知恵も体力もなく、見返りなく助けてくれる友人もいない。
いつもキリリとして無表情なみつきが泣きぼくろを歪ませ涙を浮かべ、蒼白な顔をして震える様は男達の嗜虐心を刺激した。
一番性に興味のある時期、こんな山奥に閉じ込められれば同性にだって食指が動く。
カッチリと第一ボタンまで締めてあるみつきの禁欲的な白いシャツを引き裂き、黒いベルトで細い手首を縛る。
切れ長の瞳の縁に溜まった涙は零れることなく、みつきの身体の震えにあわせてどこからか漏れ入ってくる光をチラチラとただ反射するだけなのも、また男たちの情欲を誘う。
何をするんだ、と震えながら問いかけた応えはなく、なにもかもひっぺがされた尻の穴に熱い固まりが押し当てられ、それでそこをこじ開けようと男達の汗でべたついた手の平が尻にかかる。
ピッと皮膚が切れる痛み、はぁはぁという男の荒い息、埃臭さの中に漂うすえた匂いに、みつきは生まれて初めて涙混じりの大きな叫び声を上げた。

そうして、その情けない泣き声が反響したかのように体育用具倉庫はズズンと揺れ、みつきにとっての救世主である幸村は、どこからかひょおいと降ってきてみつきに跨った男を押しつぶしたのだ。
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