くらい穴2

ここは未来で異世界で、更に『ぜんりょうせいだんしこう』という社会から隔離された監獄のような場所、とのことだ。
何てつまらない冗談を、と佐助は一笑しようとしたが、勝手に開く透明な扉、夜になっても明るい室内、見たことのないつくりをしたこの広い南蛮風の『がっこう』という建物を確認し、天井で煌々と光る明かりに目を焼かれた佐助は眉間を揉みながら混乱する脳内を必死で整理した。
必死で整理しているというのに久々の邂逅にはしゃいでいる幸村は、この一年と七ヶ月、この世界でどのように暮らしてきたのかを取り留めなく大声で語りまくり、「旦那ぁ、お願いだからちょっとは静かにしてくれよ・・・」と横目で睨むが「こうして佐助とまた会えるとは…」と満足気な顔で頷かれ『俺様の話を聞かないところはまるでちっとも成長してないのね・・・』と肩を落とした。

この世界で旦那が最初に出会ったのが、このずーっと俺様を睨みつけている『五十鈴みつき』という少年で、窮地に陥っていた彼をたまたま旦那が助けてやったのが最初だという。
更になんとよく出来た話なのだろうか、みつきの祖父がこの『ぜんりょうせいだんしこう』のお偉いさんで、助けてくれたお礼に、と行き場のない幸村をこの監獄に『せいと』として住まわせてやるように口ぞえしてくれたらしい。
幸村にくっついて離れない少年はチラチラと佐助を睨みつけながら、幸村がする説明の間違ったところだけをぽつぽつと訂正し、その時だけは吊り上げた目元をふ、と和らげる。

「それでだな、がくしょくで毎昼出る限定30食のぷりんが旨いのだ!毎日食したいのだがじゅぎょうの終了時刻があわなく、幾度となく目の前でかっさらわれ何度苦汁を味わった事か・・・!」
「だから、僕が同じレシピで作ってあげるって言ってる」
「それでは駄目なのだっ!某は、自分で勝ち取ったぷりんを、その、みつきと一緒に・・・」
「・・・ゆ、幸村・・・もう、ばか・・・」

・・・2人の会話に出てくる単語の意味はよくわからないが、とりあえず『ぷりん』とやらは旨いらしく、旦那とこの少年はイイ仲だ、という事は分かった。
2人で暮らしているという下宿の小さな板間の部屋の中央で、くつろいだ姿勢になり今まで見たことのない程にでれでれっと顔を蕩けさせている幸村に佐助は内心顔を顰める。

『旦那も年頃だっていうのに女の子より鍛錬、鍛錬、御館様ー!だし、ちょっと色があるものには破廉恥破廉恥ばっかり言っててどうなるのかと思っていたけど、まさかこうなっちゃうとはね・・・』

見付役がいない間に男色を嗜んでいたとは。
頬を染め、ふんわりとした笑みを浮かべて幸村を見つめているみつきは男にしたら線が細い。
細い身体に比べ桃色に染まった頬はふっくらとしていて子供っぽいが、キリと切れ上がった凛々しい瞳の縁にポツンとある泣きぼくろがなんとなく色っぽい。
なるほどなるほど、旦那はこういう大人か子供か、禁欲的か情熱的か分からない、不安定な子が好みなのか、と佐助がこくこく頷いていると、ふいと佐助を振り返ったみつきがまたキッと眦を上げて佐助を睨む。

「ってかさぁ、みつきちゃん?俺様なんかしたっけ?そう睨まないで欲しいなぁ〜なんて・・・」

「・・・別に睨んでないけど」

いやいや、今だって思いっきり睨んでるでしょー、と佐助が自分の目元をトントンと指先で叩くと、む?と不思議そうな顔をして幸村がみつきの頬を両手で挟む。

「みつきは顔の筋肉が鈍いからな。あまり表情が変わらないのだが・・・。うむ、某にはいつも通りに見える」

そうして顔をみつきに近づけたり遠ざけたり、頬をひねってみたりとする幸村に、佐助はええー、と口をぽっかり開ける。
誰がどう見たって今のみつきは幸村に頬を挟まれじっくりと顔を覗かれ、恥ずかしげに照れているではないか。
頬をぽんやりと染め、困ったようなしかし嬉しいような瞳をして眉を寄せ、このまま唇を奪って欲しいとでもいうようにツンと唇を尖らせている。

「ええー。・・・みつきちゃん、今旦那と顔近くて恥ずかしがってるでしょ?」

見たまんまの事を伝えると、みるみるうちに今度は幸村が顔を真っ赤に染め「ぬぉ?!か、忝い!」と叫び声を上げながらずばばっと後ずさり、変わってみつきがギリッと佐助を睨みあげる。
「そんな事ない」と冷静な声で一蹴するみつきの顔はしかし『余計な事を』と今にも舌打ちをしそうだし、「あはー、今度は怒ってるでしょ」とそれも口にすると次には『どうして分かるんだ』と不思議そうに目を見開き小首をかしげる。

「・・・そうか、佐助は忍で気配に敏感だからな。みつきの心を読み、おのずと表情もわかるのでござろう」

みつきはこれのせいで友人が少ないのだ。佐助はみつきの良き理解者になるやもしれんな!と喜ぶ幸村を尻目に、佐助は『んー、ちょっと面白いかも』とにやにやとみつきを見つめ、みつきはそんな佐助を訝しそうにまたひとつチリリと睨みあげた。
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