くらい穴9

幸村を編入させる時、みつきもそちらの彼も、何か学生として楽しめる事をしなさい、と祖父から言い付かっていた。
明るく活動的な幸村が選んだのは意外にも将棋クラブで、できる事なら二人同じ部やクラブに入りたい、とみつきは思っていたが、真顔で基盤に向かっている幸村の横顔を見て、真面目に活動している将棋クラブに将棋のいろはも知らない下心を持った自分が足を踏み入れる事に良心が痛み、悩みに悩んだ末みつきは図書委員に入った。
別々のクラブに入ってしまったのは残念だったが、みつきが図書委員として図書室にいる時は幸村も一緒に本を読んで待っていてくれる。
静かな図書室で、隣り合って本を読む時間は穏やかで、暖かで、みつきは図書委員になってよかった、としみじみ幸せを噛み締めた。
しかし、木曜日の放課後になると、幸村は将棋クラブの活動に行ってしまい、みつきは2時間程一人で時間を潰さなければいけない。

ある木曜日、みつきを一人にさせておくのは忍びない。某の隣で対局を見ていればいい。と誘われたのだが、以前感じた良心の痛みを思い出し、尚且つ幸村に誘われた照れくささから、「そんなの嫌。将棋、わからないし」と冷たく断ってしまい、みつきはその時の幸村のショックを受けた顔と、自分の物言いの酷さに自己嫌悪をして教室で一人うなだれていた。

『幸村、ショック受けてた・・・なんであんな風に断ったんだろう・・・いや、恥ずかしくても本当は一緒に行きたかったんだから、断ることもなかったのに・・・』

もっと言い方はあったはずだ。
はぁ、と夕日の差し込む教室を見回し、自分の斜め後ろの幸村の席に目をやる。

「・・・幸村、・・・ごめん」

そっと席を立ち、幸村の机に手をついて『それなら、某の対局を見ていてくれ!』と今はいないその席の主の笑顔を思い浮かべる。

『みつき、そなたも差してみるか?』
「でも本当に将棋は全然わからない」
『某が教えるから大丈夫でござる』
「難しそうだし」
『某が教えるから大丈夫でござるっ!』
「大体『さす』って意味もわからない」
『某が!教えるから!大丈夫でござるっ!』
「・・・幸村の教え方、厳しそうだし」
『そんな事はないっ!』

「・・・それじゃ、やさしく、おしえてくれる・・・?」

そうして、自分が幸村にチロリ視線を送ると、彼は豹変して自分に飛び掛ってくるのだ。
基盤も駒も机から薙ぎ落とし、そこに自分を押し倒してシャツを引き裂き、唇に吸い付きながら胸元を抓ってくる。


みつきが幸村を『欲しい』と思う気持ちには、肉体的な意味も含まれていた。
幸村と性的な触れ合いをしたい。たくさんキスをして、二人で同じ布団に潜り込んで、朝までぴったりとくっついていたい。
あまり性的な事に知識のないみつきは、クラスメイトがする猥談をそっと盗み聞き、そしてあの時幸村との出会った体育用具倉庫での出来事を思いかえし、何度も何度も幸村に隠れて自慰をした。
男同士のセックスは尻を使うとクラスメイトが笑っていた。
そうだ、確かにあの時自分に圧し掛かってきた上級生は、自分の尻に何か固くて熱いもの・・・きっと、勃起したペニスを押し当てていた。
ぞっとしないが、もしそれが──自分に圧し掛かってきたのが幸村だったなら。
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