学園TS物語8


まことは湿気の篭った風呂の中にいるのに、不思議にパチリ、パリリ、と激しい静電気を感じ、急激に乾く喉にゴクリと唾を飲み込む。
そして抱き上げられている事に気付くと腕から降りた方がいいだろうか・・・、と下を見るが、床には頭にたんこぶを作った三人が転がり、低く唸り、悶えていた。

「・・・ま、政宗さん・・・」
「っく・・・まこと、逃げろ・・・そうなった小十郎は女だろうが容赦ねぇ、ぞ・・・」

途切れる声を振り絞りまことに告げると、政宗はガクリと床に崩れ落ちる。
・・・逃げるって、どうやって・・・、逃げたとして、そしてその先どうしろというのか。
片倉先生はそんなまことの内心を分ってか、腕の中の小柄な身体を逃がさんとばかりにがっしりと羽交い絞めるとその上に持ってきた着替えを乗せ、屍となった三人を一足で跨ぎ、静かな足取りで大浴場を出て離れにある寮監督の部屋へと向かう。

「俺の部屋で着替えてから帰れ。・・・ったく、男の前で肌を見せるなと何回言ったら分かるんだ」
「か、たくらせんせい・・・」
「・・・・・・・・・宝野、何度も言ったろう。元は男でも今お前は女の身なんだ。俺も出来る限りはお前のサポートをしてやりたいが・・・お前の自覚がなけりゃ、どれだけ俺がお前を守っても意味なんかねぇだろ」

廊下は消灯がはじまったのか、一つ飛ばしに灯りがついていた。
その薄暗い廊下を片倉先生に抱かれながら、まことは上から降ってくる何らかの感情押し殺した低い声に耳を傾けていた。

「・・・先生・・・ごめんなさい・・・」

自分のせいで先生を怒らせてしまった事が申し訳ない。
そして何度も注意されていたのに、それを裏切ってしまった自分が情けない。
ぷるり、と薄いバスタオルの下で震えるまことの頭に小さなため息が吹きかけられ、ふわりと舞った髪を押さえるように大きな手の平が乗せられた。
そのままぽん、ぽん、とあやされるように頭を叩かれ、最後にくしゃり、と髪を撫でられる。

「・・・色恋にまで口を出そうっていうんじゃない。ただ、お前は流されやすい。政宗さ・・・伊達も、猿飛も、お前のそういう所に付け入る術に長けている。いきなりああいう関係に進もうとする男は切って捨てろ。───できないか?なら俺に言え」
「せんせ・・・」

卒業までは、俺がお前を守ってやる。─まぁ、お前が嫌じゃないならな。と、囁く声は相変わらず低い。
しかし、まだ湿った前髪を撫で付け、小さな耳にそっとかける仕草は優しさに満ちていて、まことは先ほどの裸の肌を撫でられた時とはまた違う、きゅうん、と甘く胸の奥が引き攣れるような感覚に頬を赤く染める。

「先生・・・ありがとう、ございます・・・僕も・・・僕ももっと気をつけます!」
「ああ、・・・いい返事だ」

ツン、と摘まれて赤くなった鼻の頭をつつかれ、お互いにふふ、と顔を見合わせて笑顔を零す。

「・・・・・・・・・でも、説教は別だ。お前には色々と言っておかなきゃならねぇ事があるみたいだからな・・・」

パシィン、と薄暗い廊下に青白い静電気が弾け、見上げていた片倉先生の前髪がまた一房、はらりと零れ落ちた。
まことは微笑を浮かべたままの頬を引き攣らせ、先ほどの政宗の断末魔を思い出し、喉の奥で「ひぃぃ・・・」と小さな叫び声を上げた。


その後、片倉先生の『鬼の寮監督』という二つ名の通り『鬼』を見たまことは、卒業まで死ぬ気で貞操を守ろうと決心する。
そんなまことに佐助と政宗は『鬼』の目を掻い潜り、必死になってちょっかいを出そうと激しい攻防戦が繰り広げられ、怯え泣くまことを見た幸村の心に今までにない庇護欲が沸き立ち二人の思わぬ伏兵となるのだが、それはまだこれから先の事。
女の子になったまことの大分破廉恥で、大分刺激的なBASARA学園での生活は、まだ数日目、始まったばかりなのだ。
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