おまけの悪夢3


「Hey、小十郎、次はコレだ、コレ食え」
「・・・政宗様、もう胃のほうが根を上げておりますので・・・」

冷や汗をかく小十郎の布団の横で、「チッ、だらしねぇなぁ・・・」と様々な料理を並べた政宗はつまらなそうに舌打ちをした。

先日の風邪は思ったよりも長引いた。
一度回復しかけた時、水を飲もうと立ち上がり、そのまま廊下で一晩倒れてしまっていたのがいけなかったようで、激しい熱をぶり返し、生死の境を彷徨う羽目になってしまった。
おかげでその頃の記憶が曖昧になっており、何か大切な事を忘れてしまったような、すっきりとしない気持ちを味わっている。
そして回復してきてからというもの、毎日のように政宗は小十郎に滋養のある料理を作っては食べさせに来るようになった。
最初こそありがたかったのだが段々とその献立は不可思議な物に変わっていき、何かの幼虫だったり、目の覚めるような色をしていたり、鼻が曲がるのではないかという匂いを屋敷中に充満させる物だったり、と半ば実験台のような立場に陥っている。

「ま、そろそろ調子も戻ってきただろう?」
「はい、明日にでも道場で勘を取り戻そうかと」

小十郎のしっかりとした返事に「Okay」と膝を叩き、政宗は立ち上がった。

「俺も付き合うからな。そんときゃ呼べよ、小十郎」
「はっ!」

政宗が部屋を出るまで頭を下げていた小十郎だが、不意に鼻についた匂いに顔を上げた。

「・・・っ、ああ、待ってくれ。それはそのままに」

政宗が用意した料理を下げていた次女に声をかけ、匂いの元の料理を残して下がらせる。
これは、何だっただろうか。どこかで嗅いだことのある匂いだ。
見たことのないドロドロとした泥のような物だが、小さく刻まれた野菜が入っており、なんだかんだとやりつつも政宗の配慮を感じて目頭が熱くなる。

『おかえりなさい。晩御飯、カレーですよ』

ふいに、頭の奥で柔らかい声が聞こえた。

「・・・まこと・・・?」

何故今、あのスケベ坊主が頭を過ぎったのか。
思い出せない記憶はあの子どもに関する事だったような気がするし、そうでないような気もする。
熱で魘されている間、まことの夢でも見たのだろうか。
いや、それならばきっといい夢だったはずだ。
記憶が曖昧な今でも、その時に見た夢は悪夢だった事だけは覚えている。

─悪夢は忘れるに限る─

思い出そうとすると酷く痛む胸に、小十郎は吹っ切るように泥のような料理に手を伸ばす。
そして想像もしていなかったそれの辛さに熱も胸の痛みも吹き飛んで、小十郎の長かった風邪は終わりを告げることになるのだった。
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