おまけの悪夢


嫌な、夢を見た気がする。


ケンケン、と急な空咳に襲われ、横になっていた小十郎は咽ながら目を覚ました。
月明かりが随分とまぶしい夜だった。
視界に入るのは見慣れた自室で、いつもは心地よいいぐさの匂いでさえも胸をむかつかせる程、小十郎はしつこい風邪を引いていた。
つい先日、『戦のない先の時代の日の本』とやらに行き、そこで男に欲情をする『宝野まこと』というスケベな少年と再会した。
そしてそのスケベな少年は風邪を引いていたのだが、どうやらその風邪が移ってしまったようだ。
─まぁ、移るような事をしたのだが─。

事を致して、精まで血となっている自分に怯えるでもなく手を握ってくれと頼まれ、今まで触れたどんなものよりも肌触りがよい布団にまことを寝せ、看病をしている内にうつらうつらとしてしまった。
そうしてハッと気付くと自分はギンギンと照る太陽の下、この戦国の世、見慣れた裏の畑のど真ん中で倒れていたのだった。
自分を発見した時の茂実の馬鹿笑いを思い出すと、今でもつい眉間が寄ってしまうのだが、ぐっと我知らず力が入るそこに「ここ、きゅってなる時、こじゅうろうさん、こわいです」と呟いていたまことを思いだす。

ぼう、と見上げた天井には、様々な顔をしたまことが写っていた。
自分を見上げて微笑む顔、涙ぐむ顔、蕩けた顔。
小さな顔についた大きな瞳はくるくるとよく動いた。
くるくると動くたびに瞬いたり、輝いたりするその瞳は、瞬間瞬間で違った表情を見せ、小十郎の視線を釘付けにした。
もっと色々な表情を見たい。もっと、もっと──。
次第に天井に映し出されたまことの頬は赤く染まっていき、あられもない声を上げはじめる。

「ん、む」

天井のまことがこちらに手を差し出し、蕩けた顔で『こじゅうろうさぁん、ご褒美、ちょうだぁい』と舌なめずりをしたのに、小十郎はじっとりと鼻の頭にかいた汗を誤魔化すようにケホンと咳をしてヨッと立ち上がった。

『違う時代の人間なのだ、あいつは』

水でも飲んでまた一眠りしよう。そうすれば明日の朝には随分楽になっているはずだ。
本当にいつぶりかにこんな風邪を引いた。
前の時は、確か政宗様が滋養をつけろと言ってよくわからない南蛮の料理を持ってきたな・・・。見た目は抵抗があったが、味はもちろん旨かった・・・。とつらつら考え事をしながらサッとふすまを開けた。

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