続・プチトリ!5


警戒をしていたおかげで今回は唇に吸い付かれずにすんだ。
先ほどまでの淫蕩な顔はどこへやら、鼻を摘まれたままきょとんと目を見開いている姿に思わず笑いが込みあがってくるが、なんとか苦笑に変えて口角を上げるだけに抑えると、まことのキョンとしたびっくり眼に理性が戻り始め、同時にじわじわと頬が赤く染まっていく。

「ご、ごめんなふぁい!」

自分が何をしようとしたのか気付いたようで、慌てて謝罪を口にしたまことはもう一度キュッと強く鼻を摘まれ、んぎゅ!と声を漏らす。

「気にしちゃいねぇ。お前、前に松永の牢で会ったまこと、だな?」

「うぅ・・・はい、お久しぶりです、その節は、あ、あの、前、お兄さんが縛られてる時、その、僕、その、失礼なことを、」

ただでさえ赤い頬をぽぽぽっと益々赤く染め、視線を合わせられずウロウロと彷徨わせるまことに、小十郎はああ、と一つ頷くと「あん時は随分好き勝手してくれたな・・・。それと、俺は小十郎でいい」とゾッとする低い声で呟く。
耳朶を震わせるその声の迫力に、からからに乾いているはずの喉をごくりと鳴らし、まことはその場でよたよたと土下座をする。

「こ、小十郎さん・・・本当に、本当にあの時はごめんなさい!あ、あの時、僕、おかしかったんです・・・!か、からだ、おかしくて、頭ももわもわってしてておかしくて、全部、全部おかしくて・・・!」

「そうか。・・・なら先刻のは何だったんだ?あんなはしたねぇ顔で擦り寄ってきて・・・」

そう言う声はやはり低い声だったが、少しだけからかいを含んだもので、しかし土下座をしてベッドに額をこすりつけているまことは気が付かない。
──確かに、さっきもおかしかった。とっても胸の奥が切なくて、でも心地よく引き攣れて、小十郎さんに甘えたくて仕方がなくなってしまった。
キスをしようとしてしまったし、それ以上に小十郎さんに手を伸ばしながら、は、は、はしたない、事を考えてしまっていた・・・。
でも、あれは風邪で、寝起きで、やっぱり頭がぼうっとしてたから・・・!

「フ、風邪を引いてもお前の助平は変わらねぇんだな」
「す、すけべっ?!そんな、僕、そんなんじゃないです!そんなんじゃなくて・・・!」

思わず顔を上げると、片眉を少しだけ上げ、切れ長の目元を緩ませて、呆れた苦笑を浮かべる小十郎と目が合った。
『・・・やっぱりこのひと・・・小十郎さんって、とってもかっこいい・・・』
初めて聞く低い声もかっこいいし、自分の手を包み込む大きな手もかっこいい。
それにからかわれるように、少しだけエッチで、少しだけいじわるな事を言われると、なんだかまた胸の奥がきゅんきゅんと甘くときめいてしまうのだ。
なんだか身体の色々なところがそわそわどきどきとして落ち着かなくなってしまう。
ぞくりと背筋に風邪の悪寒ではない痺れが走り、思わず内股を擦り合わせると、ぬるりと濡れた感触がしてまことは視線を落とした。

「あ、や」

パジャマ代わりのハーフパンツを穿いた腰元は、生理現象か夢の名残か、今の甘い痺れのせいなのか、ペニスが勃起してツン、と布を押し上げいた。
どうして人がいるのにこんなにペニスを固くしてしまっているのだろうか。
先走りも大量に漏れているらしい。擦れ合う内腿がぬちゅぬちゅと汗とは違う粘液に濡れていて気持ちが悪い。
下腹部を隠そうとして、体に力が入らずもたもたとベッドの上で泳ぐまことを小十郎は不思議そうに見下ろし、そうして持ち上がっている股間に視線が移るとフン、と今度は鼻で笑われる。

「や、み、みないでくださいっ!」

「何が『そんなんじゃない』、だ。ぐったり寝てるんで心配したが随分と元気そうじゃねぇか」

物の怪も人間も大して変わらねぇな、とまた低く笑う声がして、まことは「モノノケじゃないです!人間です!」と息を荒げて言い返しながらシーツを手繰り寄せる。
そうしてシーツを体にまきつけ、ぷく、と頬を膨らませながら涙目でこちらを睨みあげてくるまことに、小十郎は肩を震わせながら手を伸ばし、その目の前でヒラヒラと振るった。

「手ぇ、貸してやろうか?」

目の前で揺れるゴツゴツした男らしい大きな手のひらにまことは一瞬既視感を覚えたが、言われた言葉の意味を理解して、ぼふん、と火を噴くのではないかという程に顔を真っ赤に染める。

「─っ、っ、」

手って、手を貸すって、と口をパクパクしていたまことを見て、小十郎はとうとう声を漏らして笑ってしまう。

「ッ、ク、冗談だ」
「じょ・・・、うぅ・・・」

いたずらそうに自分を見つめている目と視線が合うと、むぅ、と唇を尖らせて、「小十郎さんって意外にイジワルです・・・」と小さく呟いた。
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