続・プチトリ!3


「おい!まことっ!」

宙を掴んだはずの手が、何かとても暖かいものに触れた。
そのぞっとする程の安心感と暖かさにもデジャヴを感じながら、そのままぐい、と身体を引っ張り上げられた先に見えたのは頬に傷のある、強面の男の人だった。

「ぁ、」

口元を塞いでいた布を、体に巻かれた縄を、取ってあげられなかったはずなのに、その男の人はまことの名前を呼び、ぐいぐいと手を引いて薄暗い部屋から連れだして行ってくれる。
その繋がれた手の先からじんわりと暖かい熱が伝わり、ほっこりと腹の奥まで暖まって行く感覚に、詰まっていた呼吸がすぅ、と楽になる。

「ありがとう、ございます」

あの時、あなたを助けてあげられなかったのに、それなのに今僕を助けてくれてありがとうございます。
胸いっぱいに息を吸い込みお礼の言葉を声を出すと、それが妙にはっきりと耳に入り、まことはぱちぱちと目をしばたかせた。
それと同時に男の人と二人、雲の上を走っているような浮遊感がなくなり、ぼんやりとしていた視界がくっきりと目に映る。

「・・・起きたか?」

自分の声以外に、リアルに響いた男の低い声に、まことはビクリと体を戦慄かせた。
ちらりと視線をやると、左の頬に傷がある強面の男の人が心配そうに自分を見下ろしている。
その背中越しに見慣れた自室の天井が見え、これは一体どういう事なのか、とまた二、三度ぱちぱちと瞬きをして、まことはやっと、自分が夢を見ていた事を思い出した。

「おきました・・・」

──そうだ、今のは夢だった。
とても怖い夢を見たというのに、本当に怖かったのに、窓から差し込む明るい陽の光や握られた大きな手の暖かさのおかげで、もううっすらとした恐怖しか沸いてこない。
これが普通の事で、いつまでも記憶にはっきりと残っているこの男の人の夢がおかしいのだ。
そうして、そういえば、とまことは自分に覆いかぶさる男を見て、枕に埋もれた頭を傾げ、むぅむぅと唸る。

「どうした?・・・熱が高いな。何か冷やすものがあればいいんだが・・・」

なんで、どうして、この男の人が自分の部屋にいるのだろうか。
あの夢は夢じゃなかった?それとも今この瞬間も自分は夢を見ているのだろうか。どこからが夢で、どこからが現実なのだろうか。
頭がいつもよりもぼうっとするせいか、何もかもが現実味を帯びているようで、どこかぼんやりと夢心地だ。
しかし、取り合えず、首筋に触れる手が暖かくて、やっぱりこの男の人は怖い顔をしているけれどもかっこよくて、キリ、と上がった眉を心配そうに歪ませて見つめられると熱のせいだけでなく頬がぽっぽと熱くなる。
「水・・・だな。まこと、井戸はどこにある?」と腰を上げて自分から離れようとする男の人を、まことは握り合っていたもう片方の手に力を込めて引き止める。

「やぁ・・・行っちゃやなの・・・」

そばにいて、と声にだしたら、急に甘えたで我侭な気分が胸の奥から沸いてきた。
この人に、もっと心配して欲しい。優しく甘やかして欲しい。
甘酸っぱいそれが、きゅん、きゅん、と鼓動に乗って全身へと巡らされると、まことはぷるりと指先を震わせて、じんわりと涙の浮かんだ瞳で男の人をジッと見上げた。

「おにいさ、まこ、さむいの、ぎゅってして、まこのこと、ぎゅっていっぱいして、」

抱きしめて欲しい、と今日も和服の男の胸元を手繰り寄せ、擦りつきながらまことは乾いた唇を舌で湿らせる。
男の人の唇も、荒れてカサカサして、割れていた。それが痛そうで、いっぱい舌でそこを舐めて・・・。そうだ、僕、この人とヤらしい事、いっぱいしたんだ・・・。この人のおちんちん、すごく大きくて、えっちな匂い、いっぱいしてて・・・。・・・おしり、まこのお尻に全部はいらなかった。まこのおしり、もういっぱい柔らかいのに、この人のおちんちん、おっきくて、途中でごりごりってしてて、ふとくて、えっちで、いっぱいきもちよくて・・・。

目の前に迫った男の唇に舌を伸ばそうとした瞬間、まことは不意に鼻を摘まれて、ぷぎゅ、とおかしな声を上げてしまった。

「コラ!何してる・・・っと・・・、あぁ、なんて顔しやがるんだ、まったく」

鼻を摘まれてうぅ、と唸ったまことに、男の人は額に青筋を立てて渇!と怒鳴り声を上げた。
その迫力は、蕩けていたまことの心臓と瞳孔をキュッと縮ませる程に驚かせ、びっくり眼とはまさにこの瞳の事だろうというくらいに目を見開いた顔に、男は思わず小さなため息を吐いて苦笑を漏らした。
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