プチトリ!5


ぼろぼろと流れる涙を拭っていたまことは、きゅ、と暖かいものに身体を挟まれ、驚いて顔を上げた。
男の長い足が、まるで慰めるように自分の身体を包みこんでいる。
伺うようにそっと男の顔を見上げると、自分を睨みつけていた男が吊り上げていた眉を下ろし、目許を和らげてまことを見下ろしていた。

「ぁ・・・」

先程までの恐ろしい形相から一変したその表情は、まことの緊張していた心を一瞬で解きほぐす。

『・・・この人、かっこいい・・・』

その細めた瞳がたまらなく色っぽい、とまことは自分の胸が高鳴るのを覚えた。
さっきは恐ろしい程の迫力を感じた前髪のほつれも、目の前の引き締まった胸筋も、今はたまらなく色っぽい。
ぽう、と男の表情に見とれていたまことだが、男が怪訝そうに自分を見返したのにハッとなり慌てて居住まいを正す。

「っ、泣いたりなんかしてごめんなさい。・・・僕、さっきまでは家にいたんです。それで、多分気絶しちゃって・・・。気が付いたらここにいたんです・・・。あ!あの!そうだ!佐助さん、佐助さんって知りませんか?」

ふ、と思い当たる。
佐助さんは確か、こちらに来てから大きな声で言えないお仕事をしていたはずだ。
正月に食べた、なんだかものすごく豪華だった四段のお重のおせち料理を思い出す。
この頬の傷、凄みのある雰囲気・・・この人は、もしかしたらそのお仕事の関係の人なのかもしれない。
そう考えていると、案の定男は切れ長の瞳をぱちりと一つ瞬きし、少しの間をあけた後こくりと頷いた。
やっぱりだ!なんでこの人が縛られているのかは分からないが、この人は佐助さんの知り合いで、これもなんでかはわからないが、佐助さんは気を失った自分をこの人に預けたのだろう。

「知り合いなんですね!よかった・・・!佐助さん、どうしたんでしょう・・・。あと、あの、それ、外しましょうか・・・?」

この人はもしかしたら好きで縛られていて余計なお世話かもしれないなんて事を考えながら、口と腰に回されている拘束具を指差す。
今度は男は間をおかずに云と頷き、まことは男の趣味の邪魔をしてしまったのではなかったと、内心ほっと息をついた。

まことが赤く染めた頬を緩ませているのを見つめながら、小十郎はその小さな口から出た「佐助」という名前に、この件になぜ武田が絡んでいるのか、と頭を悩ませていた。
十中八九、あの武田の忍の「猿飛佐助」に違いないと直感が告げる。
この少年は松永の手の者ではなく、武田と関わりがある人間なのか。
しかし、なぜ自分を見てあの忍の名を出したのか。
更に、あの忍の知り合いというだけでこの拘束を解くという。
一体何が目的なのか、まことの真意がわからない小十郎は、自分の膝から立ち上がり背後に回ろうとしたその小さな身体を慌てて両足で挟み込む。
拘束を解くからと言われ、背後に立つ事を許す訳ではない。
刃物を持っているかもしれない信用ならない相手に、今この状態の自分の背後を取られることは避けたかった。
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