プチトリ!4


少ない明かりを照り返してギラリと男の視線が光ったのに、まことは慌てて膝の上から降りようとして、再び感じた眩暈にふらりと上半身を崩す。
「っ、すいま、せん・・・」と男の胸板に倒れ掛かると、ひくりとその筋肉質な身体が緊張した。
汗ばんだ、男の固い大きな身体。
こんな状況だというのにピリリと背筋に電気が走った自分の身体に、まことは言いようのない羞恥を覚えて耳たぶを赤く染めた。

「ごめんなさい、なんだか眩暈がすごくて・・・。ここ、どこでしょうか・・・?」

不思議と小声になってしまうのは、部屋の空気と男の出す雰囲気が大きな物音を立てるのを許さなかったからだ。
しかし男からはなんの返答もなく、しばらく上下する男の胸に頬を寄せながら眩暈が治まるのを待ち、まことはそっと男を仰ぎ見る。
途端、バシリ、と男の鋭い視線とかち合い、まことは思わずふぇ、と情けない声を上げてしまった。
口元に白い布を噛まされている男は、先程と変わらずに自分をひたすらに睨みつけていた。
そんな敵意のこもった視線を受けるのは初めてのことで、まことは怖いのだか悲しいのだかわからない感情が沸き、ツンと鼻の奥に痛みを感じる。

「あ・・・あの、僕、まことって言います、っ、・・・なんで僕、ここにいるんでしょう・・・あなたは・・・」

じわりと浮かびそうになる涙を堪え、必死に男とコミュニケーションを取ろうとするが、よくよく見れば男は体を後ろの柱に括り付けられているではないか。
猿轡に、身動き一つ取れないように縛られたガラの悪い男。
撫で上げられた前髪がほつれ、目元に影を落としているのがまた迫力を増している。
まことは思わずゴクリ、と喉を鳴らす。

「あ・・・の、あの、っ、っく・・・そのっ・・・ふぇ・・・」

冷静に考えれば、男は口元を縛られているのだから声など出せるわけがない。
しかし、口よりも雄弁に自分に敵意を向ける視線に晒され、まことはとうとうふにゃりと顔を歪ませた。

自分の膝の上で悲しそうにほろほろと涙を零しはじめた少年を見て『一体こいつは何なのだ』と小十郎は呆れて高い天井を振り仰ぐ。
このまことと名乗った少年は自分の膝に乗り上げるという暴挙をしでかしたくせに、この眼力程度で萎縮してしまう。
袷のない、変わった着物は身体が泳いでしまうくらいゆとりがあるものなのに、その中でも薄い肩がふるふると震えているのが分かり、ふぅ、と小十郎は小さく鼻息をついた。
これは演技なのだろうか。自分を懐柔させて、何か情報を引き出そうという松永の手段・・・。
しかし、そんなまどろっこしい事は松永の趣味じゃない、と松永の性格を把握し始めている自分に腹が立つ。
疑っていても仕方がない、か。
情報を引き出そうとするならば、この轡を外すだろう。そうなったらこちらから言いくるめてしまえばいい。
取り敢えずは、と小十郎は胡坐をかいた股の間にまことを落とし、ひっくとしゃくりあげたその細い腰を引き寄せると、悪かったという意味を込めてその身体を挟み込んだ。
- 110 -
[*前] | [次#]
ページ:

トップに戻る
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -