プチトリ!3


頭が痛い。鼻も痛い。

「ぅ・・・いた・・・」

いつの間にしゃがんでしまっていたのだろうか。洗濯物はどうなってしまったのだろうか。
まことは目の前にある佐助の胸板に手を付き、座り込んでいた体を立て起こそうとするが眩暈を感じて再びぽすりとその固い胸に顔を埋める。

「・・・ごめんなさい、なんだか今、頭くらくらしてて・・・」

はぅ、とため息をつくだけでも後頭部がずきりと痛む。
何があったのだっけ。洗濯物を干しに行って、佐助さんに舌を啜られて・・・。頭に何かものすごい衝撃を感じた。
一体全体どうしたのか、とくたりと佐助の胸に寄りかかって目を閉じ考えていたが、何やら違和感を覚えては、と目を開ける。

先程まで、自分は自宅の縁側にいたはずだ。
そこは洗濯日和と幸村が言っていたようにぽかぽかと陽が当たる場所だったのに、今はシンとした薄暗い部屋にいる。
板間のその部屋は狭いくせに妙に天井が高い。
薄暗いのは灯りもなく、高い所に小さな明り取りの窓が一つあるだけだからだ、とそこから見える青い空を見上げてまことは瞳を瞬かせる。
ここは自分の家ではない。
一体佐助さんは自分をどこに連れてきたのか。幸村さんはどこに行ったのか。
天井を見上げていたまことは不安げな顔をして自分を抱えている佐助を振り返る。

「あの、さす・・・っ!?」

しかしそこにあったのは見慣れた佐助のにんまりとした笑みではなく、左の頬に傷がある強面の男の自分をきつく睨み付ける瞳だった。



しくじった。

小十郎は太い柱に括り付けられたまま、じっとりと背筋を伝う汗の感触に眉間に皺を寄せて瞼を閉じる。
松永の軍との戦闘中、ふいに嗅いだことのない香が鼻に付いた。
しまったと思った時には目の前が白く霞み始め、刀を取り落としていた。
記憶がなくなる寸前、自分の名を叫んだ成実の声が耳に残っている。
・・・ここは松永の城の牢内で、自分は捕虜になったのだろう。
武具も刀もすべて奪われ、見渡せる場所にはもちろんの事置いてはいない。
ぎり、と猿轡を噛み締め幾度か後ろ手に回った腕を引くが、頑丈に括り付けられていて肩を痛める前に止めた。
こんな所でどうにかなるわけにはいかない。
政宗様は、軍はどうなったのか。

怒りと苛立ちを押し隠しながら高い壁に付いた明り取りをジッと睨み上げていた小十郎だったが、自分の胡座をかいた膝の上にぽすんと何か暖かい物が現れたのに、首の筋を違える程の勢いでギョッと視線を下ろした。
それは小さな少年だった。
気を失っているらしく、薄く唇を開いたままぴくりとも動かない。
忍が天井から落ちてきたのか、と思ったが、それにしては体付きが柔すぎるし、いつの間にか自分の袂を握っている指先は細く、桜色の綺麗な爪が生え揃っている。
それに、これは落ちてきたのではない。現れたのだ。と不可解ながらも思い直す。
まるで空間を裂いたように自分の膝の上に現れた。
一体こいつはどこから、どうやって来たのか、なぜ気を失っているのか、色々な疑問符が小十郎の脳裏に過ぎるが、少年が「ぅん・・・」と小さく呻いて長くけぶる睫を振るわせはじめたのを見ると、戸惑った態度を見せぬよう、キッと常より眉間に力を入れてうっすらと開き始めた瞳を見返した。
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