オシオキ4

居間の襖を開けた瞬間、むわっとした熱気に包まれてまことはまた足が竦んでしまった。
しかしその部屋の中央にどん、と正座をしてこちらを見ている幸村と目が合うと、咄嗟にその場で「遅くなってごめんなさい!」と飛び跳ねるように土下座になる。

「心配かけてごめんなさい!こんな時間まで待たせてしまって、本当にごめんなさい!僕が悪いんです!その、あの、窓から見てたって・・・」

語尾を濁すまことの言葉に幸村の眉がピクリと揺れる。

「・・・あの時慶次さんは幸村さんと佐助さんが心配してるから、もう帰れって言ったんです。でも僕がまだ、もうちょっとって引き止めて・・・!」

だから、慶次さんは悪くないんです!僕が悪いんです!ごめんなさい!
顔を上げたまことの瞳は、高ぶった感情のせいか僅かに潤んでいた。

それを見た幸村は不思議な感慨を抱く。
まことの潤んだ瞳はいつも幸村の心を落ち着かなくさせた。
これ以上悲しい顔をさせてはなるものか、まこと殿には何よりも笑顔が一等似合っているのだから・・・。
その思いはこそばゆく温い庇護欲だったはずだ。
心底そう思い、ずっとまことを大切に思ってきたのに、今この胸に滾るのはもっとこの顔を歪ませたい、濡れて、汚れた彼を見たい、というねっとりとした薄暗い嗜虐の心なのだ。
一体自分はどうしてしまったのか、と頭の端で思いながらも、無反応な幸村にますます瞳を潤まるまことを見て、幸村は下腹の奥がゾワリと波立ったのを感じた。

「悪いのは、すべてまこと殿だと申すのか」

キュっと唇を噛み締め、まことは幸村の瞳を見返したままこくりと頷く。

「外だというのに人目も気にせずに口を合わせ、身体に触れられていたのもまこと殿が望んだ事なのだな。それに前田殿は付き合っただけだと」
「な、」

なんという事を言うのだろう。幸村さんらしくない。
まことは口をはくはくとさせながら、それでもジッと自分を見つめてくる幸村の視線にとうとう耳たぶまで真っ赤にしながらまた一つ、こくんと小さく頷くしかない。
──キスは自分からねだってしまった。
ちゅ、ちゅ、と何度も唇を合わせ、こすらせている内にどちらの舌が先に伸びたかは覚えていない。
大きく口を開けて慶次さんの舌を迎える事も、とろとろと流れ込んでくる慶次さんの唾液を飲み込む事も、腰を抱いていた手がお尻を触り始めた事も、外だから嫌だなんて思わず、もっともっとして欲しいとすら願ってしまったのだ。

「あは、まこちゃん大胆だね。・・・いつからそんな悪い子になっちゃったのさ」

後ろから聞こえる佐助の低い笑い声に、まことは噛み締めた唇を震わせながらまた小さく「ごめんなさい・・・」と呟く。
そうして歪んだまことの顔に、しかし幸村はますます自分の中の滾る思いが激しく飢えていくのを感じた。

「佐助」
「はいよ、旦那」

幸村の呼び声に佐助はパタン、と音を立てて襖を閉める。
その音に小さく跳ねたまことの肩を抱き「ほら、まこちゃん。おいで。悪い子にはオシオキ、だぜ?」と耳元で囁きながら縮こまった身体を立たせ、幸村の前へと誘う。
幸村に一歩近づく度、空気がじわりと熱くなっていく。
幸村さんに一体どんなお仕置きをされるだろうか。痛いのだろうか、怖いのだろうか。
そうして幸村の目の前に立つとその瞳がギラリと鈍く光ったのが見え、思わず後ずさりするがすぐ後ろに立つ佐助の胸にぶつかって逃げ場を失ってしまう。

「まこと殿、覚悟なされよ」

腕を捲くりながらの幸村の宣告に、身体を竦ませたまままことは小さく唾を飲み込んだ。
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