オシオキ3

まったく、なんという事をあの風来坊はしてくれたのだろうか。

佐助は聞いたのだ。

夕飯を食べてている辺りから、幸村はいつもまことが座っている席をちらちらと見やって、いつも三人で見ている『てれび』が始まっても心ここにあらずといった感じでぼんやりと時計を見つめていた。
風呂から上がってもまだ帰らぬまことに、前田殿も何をしているのか、もしや二人とも何か事件にでも巻き込まれたのではないか、佐助、何か聞いてはおらぬのか、と熊のように『まど』の辺りをうろうろとしながら外を眺めていた幸村だったが、見知った気配が近づいてきたのを感じてぴたりと『がらす』に張り付いた。
家のすぐ前に立っている『がいとう』の下で、まことと慶次、二人はぴったりとくっついたまましばらく身動きをしなかった。
佐助が部屋の片づけをしている間も、布団を用意している間も、幸村も同じように身動きせずに仁王立ちしたまま二人を見つめ、「ほら旦那、もう寝ないと明日に響くよ?・・・そこ寒くない?湯冷めするぜ?」と佐助の呼びかけにもぴくりとも反応しなかった。
こりゃダメだ、と佐助もお茶を片手に幸村の隣に立ち、眼下の二人をぼうっと見つめる。
鍛え上げたこの耳で、あの二人が抱き合ったまま何を囁き合っているのか聞き取ってやろうか・・・と考えていた時だった。
まことがそっと顔を上げ、ツン、と小さく背伸びをする。
それに合わせるように風来坊の大きな背中が丸まり、頭の毛束がさらりと肩から滑り落ちる。
『がいとう』の灯りに映された二人の長い影が重なり、そばだてた耳に、「ちゅ」というかわいらしい音が聞こえた気がした。瞬間、隣からも「ブツン」と何かとんでもないものが切れた音がしたのだ。

「・・・だ、だんな・・・?」
「何だ、佐助?」

今度はあっさりとこちらを向いた幸村の顔は、いたって普通で冷静だった。
しかしじりじりと逃げ出したいような殺気が至る所から溢れ出しているのは何なのか。
自分も確かにムッとした。
ムッとしたが、二人は恋仲になり、こんな時間まで帰ってこず、あんなかわいらしい睦合い以上の事をしてきたのだろうと考えると馬鹿らしくなる。
逆に『あんなところで見せ付けるように乳繰り合っちゃって。今晩もみっちりたっぷりお仕置きしてやろう』とこのまま嫉妬に身を任せるのもまた一興だなんて思っている。

そこで佐助はああ、そうかと思い至る。
おぼこな幸村はきっと、「二人が恋仲になった」と知っていても恋仲になった二人がどんな事をしているのかまで理解が至らなかったのだろう。
こうして冷たい夜風に吹かれながらも、離れがたくて仕方ない二人が今まで何をしていたのかに気が付いていなかった。
それを今、あの二人の重なった姿を見て、やっと「二人が恋仲になった」というその本当の意味を理解したのだ。
『旦那の恋、ここに破れたり、か』
初恋だったろうに、異世界の、しかも少年に惚れて、更にそれを他の男に掻っ攫われちまうだなんて、旦那にも俺様にもまったくひどい話だよねぇ。と内心深く頷きながら、次第に熱気が漂い始めた周囲に冷や汗をかく。

まこちゃん、今日のオシオキはみっちりたっぷりどころじゃないかもしれないぜ・・・?

取り敢えずは自分がとばっちりを食らわないように、と佐助はそっと居間を抜け出しながら、幸村の爛々とした目で見下ろされているまことに小さく同情をした。
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