しかし、今回は幸村の援護は期待しないほうがいいらしい。とまことは自分の身体だけではなく、廊下の空気も熱をはらんでいることに気が付き思わず足を止めた。
「まこちゃん?どうし・・・あはー、ね、ここでこんなに熱いんだから、あっちはホント、真夏以上さ」
時刻はもうすぐ日付が変わろうとしている。
戦国時代はもちろん電気なんかなく、火を灯す油は高価だから太陽と同じサイクルで生活している、と以前幸村さんに教えてもらった事がある。
こちらにきてからはまことと同じような生活を送ってはいるが、最近でも夜九時を過ぎるとうとうとと船を漕いでいる時がある。
そんな彼がこんな時間にこんなにカッカと怒っているなんて・・・。
幸村と佐助、二人に夜更かしさせるほど心配をかけてしまった。
慶次と離れがたく、我侭を言って引き止めて別れを伸ばし伸ばしにしていた先程の自分を思い出し、まことの小さな胸に罪悪感が募る。
「佐助さん・・・心配かけて、本当にごめんなさい・・・」
しゅん、とした顔で頭を下げるまことを見て、佐助は苦笑を漏らしてその小さな頭をぽんぽん、と撫でてやる。
「あは。まあ、ね。まだ『オツキアイ』したてだもんね。ハメはずしちゃう気持ちもわかるんだけれどさー」
佐助にとっても、幸村にとっても、まことは甘酸っぱい気持ちを抱かせる、かわいい、庇護すべき存在だった。
この子が幸せになるのに自分以外の男の手を取るというのなら仕方がない。そっと見守ってやろうと男の矜持をかけて思う。
が、しかし、佐助はそんな淡い恋心を抱く反面、男心をくすぐるまことに存分な下心も持ち合わせていた。
その下心が、他の男に掻っ攫われてしまったけれど少し悪戯するぐらいいいじゃないか。大体この子に惚れてる男がいるって家に、毎日あっさりと帰してしまう風来坊が悪いのだ。自分だったら錠のかかる部屋に入れて、他の男の目につかないように大事に大事に愛してやるのに、と男の矜持のかけらもない未練がましい事を思わせてしまう。
「・・・幸村さん、そんなに怒ってるんですか・・・?」
「怒ってるっていうか・・・」
キレちゃってるのかな、アレは・・・と先ほどの幸村の様子を思い出し、強ばった顔をしたまことの頭をまた一つさらりと撫でる。
今日はまこちゃん眠れないかもしれないぜ・・・と呟いた佐助の声は、幸か不幸か頭を悩ませているまことには聞こえていないようだった。