いたずらハロウィン9

まことの耳は忙しなく畳んだりピッと伸びたりを繰り返すが、折箱を差し出し、腰を折ったまま身じろぎしない男に肩の力を抜き、「おばん、です。とんでもごにゃいません・・・」とそっと折箱を受け取った。

「『Trickは楽しめたか?』との伝言です」

箱は思ったよりも軽く、でも、受け取っておきながら迷惑ってなんだろう?と男の言葉に首を傾げる。
しかし、トリックという言葉で思い出したのは、夕方、大福をあげたあの男の子だ。
「大福を・・・」とまことが呟くと、「意外に美味だった、と仰っていました」と応える男の声は、先ほどまでの固い声よりも少し、感情がはいっていた。
あの子の親御さんなのかな?あの子も小さくても迫力のある子だったけど、この人もすごい迫力だな、とぽんやりと思っていると、またふわりといい匂いが漂ってくる。
・・・やっぱりこの男の人からこのいい匂いがする、とまことが恍惚とした表情ですんすんと鼻を鳴らしはじめると、男も訝しげに顔を上げ、しかしまことの猫の耳を見て再びピタリと動きを止めた。

「・・・あれほど御自重なされよと告げたのだが・・・。やれやれ、あの方が俺にこれを持たせた意味がやっと理解できた」

男がスーツのポケットから小さな袋を取り出すといい匂いがますます強くなり、まことは「んにゃー!」と歓喜の声を上げると、瞬時に耳も尻尾もびんびんに立てて息荒く男に飛びかかる。

「ん、んにゃっ!それ、それにゃっ!すごいにゃっ!いいにおいっ、いいにおいにゃっ!」

しかし飛び掛ろうと玄関の引き戸から手を離すと、力の入らない足ががくりと折れる。
それでも這いずり、にゃぅにゃぅ、と鳴きながら男の足にしがみつくと、先程まで小袋が入っていたポケットの匂いをすんすんと嗅いで恍惚とした表情を浮かべる。

男はそんなまことの様子に「これを持ってきゃ何時何処でだろうと、向こうから出てきてくれるぜ」と八重歯を見せて笑った主の人の悪い顔を思い出し、はぁ、とため息をつく。
ついでに写真の一枚や二枚撮ってこい、と言われた事も思い出し、少年には少々申し訳ないと思いながらデジタルカメラを取り出そうとするが、匂いを嗅いでいただけだった少年がとうとうザリザリとポケットを舐め始めたのに、そこまでするのか、と驚いて膝を折る。

「おい、大丈夫か?・・・ハロウィンのいたずら、って話だが、まさか猫にさせちまうなんざ悪かったな。いいか、これはマタタビだ。くれてやるから家の中で十分に堪能しろ。それとさっきの箱にはこの状態を治す薬が入っている。堪能し終わったら薬を飲んで・・・っ、」

男が低い声で何かを言っているのが聞こえるが、まことは目の前のポケットに夢中で必死で舌を動かすことしかできない。
いいにおい、いいにおいなの、頭がくらくらするほどいいにおい。
唾液ででろでろになった上等な布地をまことは口に含んでちゅうちゅうと吸っていると、ぐいっと襟首を掴まれ持ち上げられる。

「にゃー!もっとかぐのっ!いいにおいかぐのぉ!」

「おい、猫坊主」

まことは頬を膨らまし、ぷん、と怒りながら男を見上げるが、意外な程すぐ近くに眉間に深い皺を寄せ、鋭い瞳をギリリと凄ませた鬼のような形相の男の顔があり、その迫力に思わず「ふにゃっ!?」と声を上げると一気に耳と尻尾を小さく縮こまらせた。

「・・・これはてめぇの合意でか?」

男は怯えるまことに目もくれず、精液がこびりつき、縮こまった耳を指差す。
暗闇に慣れた目でよく見れば、少年は内腿に白い粘液を垂らし耳や尻尾は固まった精液で毛並みがほつれ酷い有様になっている。
猫の耳にばかり目がいっていたが、その顔は悪くないどころか男なのにどこか放っておけない可憐な顔立ちをしている。
少年といえど、どこかで男に悪さをされてもおかしくはない風情があった。
それにふらふらと警戒心もなく、マタタビの匂いにつられて出てくるような頭の中身をしている子供だ。
男が目を細めてまことの顔を見定めていると、ふわりと夜風にのって鼻についた精臭の新しさに、男はハッと開けっ放しの玄関を警戒する。

「まだ、中にいやがるのか?」

無意識に男はまことを背後に庇うと、ギッと視線だけでどうにかしてしまいそうな程にキツい眼差しで玄関の奥を睨みつけ、今にも中に殴り込んで行きそうな前傾姿勢になる。
まことは慌てて両手を振り「ごっ、ごっ、ごうい、ですっ・・・合意にゃんですっ!」と男の袖を握り、飛び出していかないように力をこめる。
・・・なんと気恥ずかしい。
真意を計ろうとまことの顔をじっと見下ろしてくる男に、まことは顔を真っ赤にして伏せたままの耳をぴるぴると振り、尻尾もぱたぱたとせわしなく動かす。
しかしそうするとまた尻の奥から大量に注がれた幸村の精液がぷじゅ、と音を立てて溢れ出してきて、男と目を合わせたままだったまことは恥ずかしさのあまりに喉の奥からにゅぅぅ、とおかしな声を出し、大きな目にじわりと涙を浮かべてしまう。

「そ、うか。合意か。合意、なんだな?・・・悪かった、ほら、これを使え」

男も気まずそうにまことから目をそらすと、そっと綺麗にアイロンのかかった水色のハンカチを差し出した。
震える手でそれを受け取り、ありがとうございますにゃ、と滲んだ涙を拭き取ると、これは洗って返すべきなのか、と躊躇しながら石けんの匂いのするハンカチをきゅう、と握る。

「そうじゃねぇ、下を拭けって言ってんだ」

「した?」

まことがきょんとしたままハンカチを握っていると、男は小さく舌打ちをしてまことの足元に屈む。
ひゃ、とたたらを踏むが、男の大きな手がひっくり返りそうになったまことの腕を掴み寄せ、ハンカチをもぎ取りそっとふくらはぎにこびり付いた残滓をぬぐってゆく。
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