heat watching1


慶次とまことの二人、帰り道での事だった。

「よっ」
「おっ、猿飛じゃん」

聞き覚えのある色気のある声にまことが視線を上げると、あの夏祭りの日にナンパに失敗した人が立っていた。
おしゃれな格好をして、ちょっと長めにした明るい色の髪を括ってまとめている今風の男の人に、まことは少々の気後れを感じて慶次と並んでいた足を小さく一歩だけ引く。

「そういやあの後どうだった?」
「はぁ・・・それを聞いちゃうの・・・?まぁあの日はお察しの通りだったんだけどさぁ、別件でちーっとマズイ事があってね。前田の旦那にお願いしたい事ができちゃってー・・・」

そこでナンパの人、猿飛という名前らしいその人が、慶次の影になっていたまことに気づいたようで、ちらりとこちらを見下ろした。
今日は学校にいる為、細身のパンツにダブッとしたシャツという普通の格好で、あの日の女の子とは気づかれる事はないだろう。
そう思い、特にその場を立ち去る事もなく慶次の斜め後ろにいたまことだが、猿飛の切れ長の瞳と目が合い慌てて、ぺこ、と小さく会釈をする。
そんなまことに猿飛は道端に転がる小石を見た時のように特に何の反応も返す事もなく、目線をまた慶次に戻そうとフェイントをかけてから、再度顔ごとグリンッ、とまことに向けた。
ビクッと肩を揺らしたまことに、猿飛は本当に一瞬、頭の先から足の先までビチッと視線を走らせて、「ぁあん?・・・はぁ〜ん・・・」と謎の声を漏らし、ニンマリと口角の端を持ち上げる。

「んだよ、猿飛・・・」
「や、や、いやいやいや、別に何でもないって、ネェ?」

怯えるまことと、それをのぞき込む男の間に体を割り入れた慶次に、先ほどまでの無関心さなど感じさせる事なく、猿飛は切れ長の瞳まで弓なりにさせてまことに向けてニッコニッコと音が聞こえそうなほどの笑顔を作る。
不穏なモノを感じる・・・とまことは逆らう事なく慶次の背中に隠れると、猿飛は深追いをすることなく機嫌よく、中断していた『お願い』の話を再開した。

「そうそう、さっきの話だけど、真田の旦那が花火大会で会ったアンタのカノジョに岡惚れしちゃったみたいで」
「ハァ?!ンだよそれ?!岡惚れ・・・、って真田がぁ?!」

自分の恋人に横恋慕されて怒っていいのか、あの惚れた晴れたに疎く女っけのない朴念仁の真田が恋をした事に驚けばいいのか、慶次は大きく開けた口を閉じたり、また開いたりする事しかできない。

「あの夜、アンタのカノジョに会って・・・会ってっていうか、一瞬すれ違っただけだったよね?なのにあれからなぁんかボケちゃってさぁ・・・話を聞いたらなんのかんの言い訳してたけれど、一目惚れってやつでしょありゃ。見ててちょっとキモ、ンンッ、かわいそうでさぁ・・・んで、親友の初恋の為に頭を下げる俺様のお願い、やっさしぃ前田の旦那だったら聞いてくれるよね?」

『今この人キモイって言った・・・』と慶次の背中で二人の会話を聞いているまことは内心思っていたが、それよりも、この猿飛さんの親友の真田さんという人が好きになってしまった『夏祭りの夜に会った慶次先輩の彼女』とは自分の事ではないか、と冷や汗をかく。
この人がお願いする内容は、もしかして自分にも関係のある事なのではないだろうか。

「いや、内容によるって」
「アンタと彼女がイチャイチャしてる所、見せつけてやって欲しいんだけど」

「えっ?」「はっ?」

『お願い』を真顔であっさり拒否する慶次に、猿飛は顔色を変えずに慶次の拒否にかぶせるように言葉を連ねてきたのだが、その内容に慶次だけではなく耳を大きくして聞いていたまことも、思わず変な声を上げてしまった。

「本当はキスの一発でもかましてもらえればよかったんだけどさ、もうこの際真田の旦那が再起不能になるくらいにイチャイチャベタベタグチョグチョしてる所を見せつけてさぁ〜、あの人に『ゲンジツ』を見せてあげて欲しいんだよねぇ」

『ゲンジツ』の所で、猿飛の視線がまことへ向いたのに慶次は気が付いた。
十中八九、こいつはこのまことが、あの花火大会の夜の少女だと気づいていて、真田に『お前の惚れた奴は、女装をした男だったんだぞ』とまことの股座でも晒して現実を見せてやってくれという要望なのだ。
それをまことは気づいていないのか「ぐ、ぐちょぐちょ・・・?」と小声で呟いて頬を赤く染めている。
そんなまことの姿に、慶次の脳裏に猛烈なイメージが走った。

───自分の体液でぐちょぐちょのまことを、まことの事が好きな男に見せつける───

ばくん、と股間に血液が流れそうになって思わず拳を握りしめれば、それを見て何を勘違いしたのか、猿飛は胸の前で両手を広げ、降参のポーズをとった。

「や、やや!まぁ普通にいちゃこらしてくれるだけで?取りあえず真田の旦那に諦めてもらえれば?俺様は構わないってハナシ!」

「や、俺は構わないけど?」

「えっ?」「はっ?」

今度は猿飛と二人、思わず声を漏らしたまことをチラリと見つめ、慶次は満面の笑顔を浮かべる。
「んっふっふー、いいー事思いついた!んで真田っていつ暇?いつヤる?今日は?」と白い歯を見せながらにこやかに笑う慶次だったが、その笑顔からは常らしからぬ、ニヤリという擬音が聞こえるようだった。

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