いたずらハロウィン2

数メートル子供を追いかけた幸村は人ごみに消えた小さな影を憎々しげに見やり、しゃがんだままぽかんとしているまことを振り返る。

「まこと殿!申し訳ござらん・・・っ!童と思い油断し、まこと殿の唇を目の前で・・・!くっ、某、某・・・ぬ、ぬああああああああ!!!!」

大声で叫び拳を震わせる幸村に、周囲の人が何だ何だと遠巻きに視線を寄せる。
まこともはっと慌てて幸村に駆け寄ると、「気にしてません!小さい子のした事ですから!びっくりはしちゃいましたけど・・・」と震える拳をそっと両手で握り締めて家路へと引きずった。



「いつも思うんですけど、幸村さんの手、すごくあったかいです」

くぅ!まこと殿、申し訳ございませぬ、申し訳ございませぬ・・・と今にも涙を零しそうな程に嘆いている幸村の手を引き、しんとした夕餉の匂いが漂う路地を歩きながらまことは呟く。
幸村さんは何をそんなに嘆くのか。
びっくりしたけれど、あんなのはキスのうちに入らないと思う。
ぷくぷくした子供の唇は温かく、近づいた瞬間その子の髪から香水のような落ち着いたよい香りも漂ったが、心地よいとは思いながらもそれ以上にはまことの胸に響かなかった。
それよりも少しカサついた唇をして、汗の匂いがする、幸村さんとのキスのほうが何倍も・・・とまことは握っている熱い手の持ち主を思い出して頬を赤く染め、ますますその手に指を絡ませた。


まことに両手で引っ張られていた左手は、今ではまことの右手と重なり合い、指を絡め取られている。
小さなその手は秋風にさらされた為か少し冷たくなっていて「・・・そ、某の属性は炎なので暖かいのだと・・・」ともごもごまことに返事をしながら『暖める為だ、まこと殿の手を霜焼けにしてはならぬからだ!』と自分に言い聞かせ、ふん、と気合を入れて冷たい指先をぎゅっと強く握り返す。
手を繋ぐと、先ほどまであんなに荒れていた心がすぅっと落ち着いてくる。
『そうだ、もう二度と会うこともない、たかが道で会った子供ではないか』
あの隻眼が闘争心を煽ったのだろうか、どことなく口調や身振りも自分のいた世界の好敵手に似ていたような気さえする。
激しいショック状態から回復した幸村は、しかし今度は繋いだ手の温もりに落ち着かなく視線を揺らす。
そして少し前を歩くまことの耳たぶが真っ赤なのに気付くと、幸村は最近よく感じる胸の奥がくすぐったいような、もどかしいような、叫びだしたいような気分に陥った。
真っ赤な耳たぶ、桃色の頬、細い首、自分の指を握るちいさな手、そのどれもに跪いて額を擦りつけて許しを得たくなるような、この奇妙な気持ちはなんなのか。
いつもならここらへんで叫び声を上げてこの奇妙な気持ちを散らすのだが、前を進むまことは幸村の手を握ったまま離さない。
発散できない思いが腹の奥をむらむらと煽り、繋いだ手のひらにじっとりと汗を掻かせる。
ふーっふーっといつの間にか幸村は堪えられない鼻息を荒く漏らし、じわじわとまこととの距離をつめる。
あと少しで手が届く、というところで、ふとまことが立ち止まる。

「あ、大福!2つなくなっちゃったから、もういちど、買って・・・」

きましょうか?という声は続かなかった。
振り返ってすぐそこにいる幸村にまことはきゅっと息を呑む。
目の前で揺れる六文銭、キリリと食いしばられた口元、真っ赤に染まった頬、険しい目元とじわじわ視線を上げてゆく。
パチン、と視線が合った瞬間、幸村からぶわりと熱気が噴き出したような気がしてまことは思わず一歩後ずさった。

「っ、まこと殿っ!」

何を勘違いしたのか、後ずさったまことに幸村は逃がすものかと手を伸ばし、噴出する熱気をそのままに胸に掻き抱く。

「・・・ゆ、ゆきむら、さ・・・ぁ、あつ、熱い、です・・・っ!」

髪が熱風で巻き上げられ、幸村の頬を、まことの額をくすぐってゆく。
ジリジリと熱風に焼かる中、幸村は胸に収めた小さく柔らかいまことの感触に、鼻先に巻き上がった髪の香りに、ますます腹の奥を煮え滾らせる。

「まこと殿、まこと殿まこと殿っ!」

息荒く、ぐわし、と薄い肩を掴み顔を上げさせる。
暑さに眩暈のしているまことは額にうっすら汗を掻き、されるがままに蕩けた瞳でぼぅと息を荒げた幸村を見上げる。
その半開きの唇に、幸村は本能のままに顔を寄せようとした瞬間。

「ふぁ、まっ、てっ、」

近づいた幸村の後毛が、ふわりとまことの鼻先をくすぐった。
むずむず、とこみ上げるくしゃみにまことは幸村から顔を逸らし、プチン!プチン!と小さくくしゃみをする。
一度目のくしゃみの時、顔を逸らしたまことの頭頂部にプチン!というくしゃみの音と共に何かがぱふん!と生えてきたのを幸村は見た。
それは滑らかな肌触りで、目を見開く幸村の顎辺りをこそこそとくすぐる。
二度目のくしゃみの時、プチン!とくしゃみをしたと同時にズボンの中、尻の上あたりに何か柔らかい物が突っ込まれ、まことは背筋を戦慄かせた。

「ふゃ、ふにゃぅ!?にゃんかあるにゃっ!おしりむずむずするにゃっ!やにゃー!とって、とって!ゆきむらしゃん!とるにゃぁ!」

しかし幸村はあわあわと尻をよじるまことの肩をぐわしと掴んだまま、「まこと、殿・・・み、みみみみみ耳がっ・・・!」とまことの頭の上に生えたものに釘付けになっている。
真っ黒な、獣の耳だった。
随分と落ちた夕日を反射して毛並みを輝かせるそれは、ピンと立ってはいるもの細かくふるふると震えている。
おそるおそるそれに手を伸ばすとしゃく、と柔らかい感触を感じたと同時に「にゃぅ?!」とまことの体が跳ね、ピンとしていた耳がへたりと伏せてしまう。
にゃぅ、とは何か、なんと愛らしい、そういえば先程からまこと殿の口調がおかしいがこれもこれで愛らしい、と幸村は混乱した頭で考える。
そうして掴んでいた肩から手を離すと、まことは自由になった腕でズボンのベルトを外し、外だというのに尻に入っている物を取り出そうと下着をずり降ろす。

「!?まこと殿!こ、こんな所で!はれ、破廉恥な・・・!」

「にゃ、いやにゃ、おしり、なんかある・・・にゃっ!やにゃぁ!おしり、おかしくなってるにゃぁ!」

ゆきむらしゃぁん!とその場にしゃがんでしまったまことの足の間から、耳と同じ真っ黒の長い獣の尾がぷるぷると震えているのが見えた。

「し、しっぽにゃ、まこ、しっぽがはえてるにゃっ!ぅ、口もおかしいにゃ!にゃんで、にゃって言っちゃうにゃぁ!」

涙目になり、尻尾も耳も、縮こまらせて小さく震える姿はまるで捨てられた子猫のようだった。
下履きが下着もろとも足下まで落ち、上着は大きめなものを着てはいるが裾は尻を隠す程度しか長さがない。
そこから震える黒い尻尾がもじもじと顔を出し、そっと揺れてはぎりぎり尻を隠している裾をはためかし、腿から尻へと続くなだらかな丘をちらりちらりと見せたり隠したりする。

「まこと、殿・・・な、なんと、は、」

破廉恥な!と叫びそうになった言葉は、まことの「ゆきむらしゃん、たすけて、」と必死に『にゃ』と言わないように気をつけたたどたどしい口調を聞き、ぐっと飲み込んだ。
人気がない路地とはいえ、周囲は民家だらけだ。
ここで自分が大声を上げ、こんな状態のまこと殿を他人の目に晒す事など考えるだけで腹がむかむかとしてしまう。

「まこと殿、失礼致すっ!」

幸村は自分のシャツをまことにかけるとがばりと横抱きに抱え上げ、全速力で家路を走る。
シャツをかぶり、胸元に押し当てられている頭から小さな嗚咽と「・・・ありがとう、ございますにゃ・・・」と感謝の声が聞こえ、そのいじらしさにたまらなくなった幸村は、とうとう「うおおおおおお!み・な・ぎ・るぅあああ!!!」と雄叫びを上げながら住宅街をひた走った。
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