月明かり7


「僕、怒ってるんですよ?僕を信じてくれない慶次さんに。・・・でも、もう・・・そんな顔されたら怒れないじゃないですか」
「・・・まこが俺を怒るなんて、」
「怒りますし、慶次さんだって僕を怒ります。今はしなくても、そんな事考えられなくても、長く付き合う内に、そういう風になっていくんです。自然に、あたりまえに」

ふふふ、と今度は瞳まで緩ませて、まことは優しい笑みを浮かべる。

「慶次さん、時間ってすごいんです。変わらないようにしようって努力しないと、自然と変わってしまうんです・・・僕と、慶次さんも、長いお付き合いの内に、色々ありました。その度に、お互いちょっとずつ変わっていったんだと思います」
「・・・色々って?」
「あっ!・・・内緒、です・・・」

大人びた、慶次に言い聞かせるような優しい声色を使っていたまことが、慌てて口元を指先で隠し、そのまま困ったように、恥ずかしげに笑う姿は、あの自分の小さなまことを彷彿とさせた。

まことに会いたい

今の自分には、あのちょっとした事で恥ずかしげに笑う、小さなまことが合っているのだろう。このまことの前では少し萎縮してしまう。
慶次の内心の思いを見抜いたのか、まことの柳眉が少しだけ下がる。

「・・・安心、してください・・・色々・・・色々、良い事ばっかりじゃなかったですけれど、でも良い事の方がいっぱいありました。そんな中で僕も、慶次さんも、気付かない内にちょっとずつ変わっていったんだと思います。いきなり会ったから、すごく変わってしまったように見えるだけで。ふふ、だって僕、胸のコンプレックスがなくなったくらいで、後は自分は今でも電車で慶次さんと出会った時のまんま、そんなに変わってないと思ってたんです。そんなに驚かれて、びっくりしました」

デンシャ。なんて懐かしい響きだろう。と慶次はまことと出会った時の事を思う。
でも笑顔で「あの頃とそんなに変わっていない」と自分を評価できるまことは、やっぱりとても大人になっている、と感じた。

「まこ・・・で、結局・・・」
「はい?」
「・・・結局、猿飛とは、なんでもないんだよな?その毛の事も、俺がやったんだよな?」

それでも確認を取っておきたい、と慶次がまた真顔でまことに詰め寄れば、苦笑を浮かべ少々眉を下げた困り顔・・・というよりも、呆れ顔を浮かべられた。
その『もう、しょうがない人』というような空気をまとったまことの表情を、もちろんの事だが慶次は初めて見た。
聞き分けのない小さな子供を相手にしているような、愛情あふれた大人びた表情。

「どうして佐助さんがでてくるんですか?・・・この頃から慶次さんって僕と佐助さんの事、変に思ってるんですね・・・」
「だ、だって、あいつがまこに告白した所、俺見てるし!まこの家に世話になってたとか言ってたし!気になっちまって当たり前だろ!」

そんなまことと顔を合わせていると、まるで自分が子供になったような気分になってしまう。
唇を尖らせて文句を募る慶次に、まことはまた苦笑を漏らすと尖った唇をツンと指でつつく。

「もう、僕もびっくりしてます。慶次さん、こんなにかわいかったですか?出会った時からずっと、いつでも慶次さんはかっこいいってイメージがあったのに・・・」
「いめじ・・・?かっこいいって、そんなん、買い被りだって・・・」
「『慶次さんの僕』には、そう見えてるんです。ずっと、何をしても、慶次さんはかっこよくて頼りになるって」

唇をつついた指が頬を撫で、鼻を通り、額をくすぐる。

「・・・僕はずっと、そんな慶次さんにメロメロなんです・・・僕にはずっと、慶次さんだけです・・・そんなに心配だったら『帰って来た僕』に聞いてみてください?隣に誰が寝てたか、恥ずかしそうに教えてくれると思います・・・ココだって、毎晩慶次さんが・・・・・・あぁ、それはこれからのお楽しみにしましょう?」

慶次の顔を撫でていない方の手が、やわやわと毛のない下腹部を撫でる。
その仕草があまりにも官能的で、慶次は思わず喉をゴクリと鳴らせてしまった。

「かわいい、かわいい、慶次さん、ずっと、いつでも、いつまでも、大好きです」

寝床に横たわったままのまことが瞼をふせ、首を傾け、ツンと唇を突き出した。
慶次も戸惑う事なくまことをつぶさないようにその上に伸し掛かり、同じように瞼を伏せて顔を近づけていく。
唇に小さく震えている暖かな吐息がかかり、まことの長い睫が頬に擦れた瞬間、慶次はピン、と何かを感じた。

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