月明かり6


その事実が脳に到達した瞬間、慶次はここで初めて不安になった。

『本当に先の世で、この色っぽいまことの隣にいるのは自分なのだろうか』

慶次はたしかにまことの『イイ所』をぐずぐずに蕩けるまで責め立ててみたいとは思うけれど、こんな事───剃毛なんて、したいと思った事は、いや考えた事すらなかった。
このまことは自分がまことをこんなに色っぽくしたというが、己にそんな男の力量があるのか。これから出てくるのか。そして、そんな男の力量を備えた自分はこんな悪趣味な事をするようになるのだろうか。
一瞬の内に脳裏を廻った疑問に、応えるようにパッと明るい頭の男が浮かんだ。
怪しいのはアイツだ。猿飛だ。こういう事、アイツはきっと好きだろう・・・いや、そういえば最近妙に文を送ってくる伊達も怪しい。いやいやいや、そう見せかけていつも伊達のしでかす事を謝ってはまことの頭を撫でたりしている片倉さんだって怪しい。ああいう冷静そうな大人の男が意外な趣味を持っていたりするのだ。
無毛の股間を見つめたまま動きを止めた慶次に気付かず、まことは慶次の指二本、それに絡めた己の指二本の四本の指を難なくしゃぶりこんだ尻穴をぎゅうう、と締める。

「ひ、ひ、ひぃ、でる、また、またくるぅうっ!慶次さんのっ!慶次さんの指でイっちゃううぅッ!」

紅潮させ、蕩けていたまことの顔がその時ばかりはきゅうぅ、と歪む。
空いていた手で陰茎を扱き上げ、まことは二度目の射精をした。
無毛の無垢な下腹がうねるように波打ち、痙攣するのを慶次は呆然とした顔で見つめていたが、指の合間から跳ねた精液が慶次の頬をピシリと叩いたのにハッと顔を上げる。

「ふ、ぁ、けいじさ、ん、わかった?ここ、まこの・・・僕の、すきなところ・・・・・・けいじ、さん?」

荒い息を吐きながら、力の抜けた身体をくったりと横たわらせていたまことが、様子のおかしい慶次に気付いて身を起こす。
こちらを心配そうに伺いながら、ちゅぷり、と濡れた音を立てさせて指を引き抜き、枕元の手ぬぐいでその汚れを拭いてくれるが、その慣れた仕草がまた慶次の脳に警鐘を鳴らす。
俺のまことはこんな事をしない。綺麗にしてやるのは俺の役目だったはずだ。仕込まれたんだ。誰に。あいつに。
小さく震えていた慶次はまことの手を振り払い、両手で細い肩を鷲掴んだ。

「なぁ、なぁ!ほんっとに俺なのかい?!俺がまこにこんな事するの・・・信じられないっていうか!もしかして・・・もしかして、まこってホントは別の奴と・・・!」

あまりにも慶次の勢いがよかったため、未だ身体に力の入らないまことは再び寝床に押し倒された。
痛む背中に少しだけ眉を寄せ、しかし自分に伸し掛かり、目を血走らせて詰問する慶次を見上げるとまことはにっこりと頬を緩ませる。

「・・・こんな事・・・ああ、これ、剃毛の事、ですか?これは慶次さんが無理矢理・・・・・・というか、別の人?別の人って、たとえば、」
「猿飛だろっ!?絶対許さねぇっ!」

橙の男を足に挟み、妖艶な笑みを浮かべる青年のまことを脳裏に想像し、慶次は吠えた。

「まこは、『まこと』は、いつのどこの『まこと』だって、俺の『まこと』なんだろっ?!」

慶次の瞳が爛々と、暗い嫉妬の炎を渦巻かせるのを、まことは優しく微笑みながら見つめ返す。

「はい。僕はいつの僕も、慶次さんの僕です」
「っ、っ!じゃあ、なんで猿飛なんかに、」

妄想の中の佐助がまことの淡い下毛に手を伸ばすのに、腹の奥からちょっと上の胸の下辺り、先ほど自分でも初めて知った熱のあり所が、ぐわり、と再び熱を持った。
他の奴にやられるくらいなら自分の手でやりたい。真っ白なまことにいやらしい事を教え、色を付けていくのは自分でありたい。まことを他の誰にも取られないように、どこかに仕舞ってしまいたい。
まだ、自分のあの小さなまことは俺の、俺だけのまことだ、自分の腕の中に帰ってきたら、俺が一番にあの淡い下毛を刈り取って、誰の目にも止まらぬように閉じ込めなければ───

「慶次さん」

そのまことの声は、怒りなのか嫉妬なのか、なんだか分からない初めての感情に取り乱れていた慶次の思考を正気に戻す事の出来る、静かな、力の入った声だった。

「・・・まこと・・・?」

相変わらず自分の下で優しく微笑んでいるまことだが、しかしやっと違和感に気付く。
目がちっとも笑っていないのだ。

「まこ、まこと・・・?」

そういえば、このまことはいくつなのだろうか。今更な事に慶次は思い至る。
そのひんやりとした表情は、己よりもいくつも・・・いや、大分年上のように見え、慶次の背筋がピンと伸びた。

「・・・まこと、さん・・・?」

思わず敬称をつけて名を呼ぶと、まことの頬がピクリと戦慄き、プッ、と笑い声が漏れる。
途端に温かみがある表情が戻ったのに、慶次はホッと肩から力を抜いた。

「ふふっ、あはは!慶次さんが『まことさん』だなんて、ふふ、あははは!」

寝ころんだまま笑い転げるまことの横に、慶次は背筋を伸ばして座を正す。
──何か、とても怖い考えに冒された気がする。
先ほど頭をよぎった図。
立派だけれども薄暗い蔵座敷に、赤い縄で縛られているまことの白く細い身体が浮かぶ。
その身体を昼間から開き、小さな明り取りから漏れる日の光の下で、下毛を剃ってやるのだ。
なぜだろうか、一寸前には理解できなかった嗜好が、今なら分かる。
支配だ、まことのすべてを支配したい、という気持ちが己の心の中に芽生えてしまった。
いや、きっと今まで自分でも気づかないように隠してきたのだ。でも、もう気付いてしまった、まことのすべてを支配したい。

「まこ、まこと、俺」

顔を蒼く染め狼狽しきっている慶次に、まことは笑いすぎて滲んだ涙をぬぐうと「もう、慶次さんったら、おばかさんなんだから」と小さな手を向けてくれた。
暖かなその手が、血の気の引いた慶次の頬を優しく撫でる。

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