いたずらハロウィン1

夕飯の買出しをしている途中、最近妙に町が佐助色に染まっている、と呟いた幸村に、まことはへぷちっと唾を飛ばす勢いでくしゃみの名残を噴きだした。

10月も半ばを過ぎ確かに町は街路樹も紅葉しはじまり、更にハロウィンのかぼちゃのオレンジ色一色で、佐助さんの髪の色を思い出す。
まことは咽込みながらどういう事かと幸村に話を聞くと、やはりハロウィンのオレンジ色のディスプレイが佐助を思い出させるらしい。
ああよかった、佐助さん色っていうから僕てっきり・・・と頬を赤くして呟くまことと、それを不思議そうに覗き込む幸村は、僕は佐助さんは緑色だと思います。いやでも橙色であろう。・・・あと、たまに黒っぽい時もあると思います・・・。む、佐助のバサラは闇属性でござるからな・・・いや、あれは属性のせいなのか・・・。などと会話をしながら、幸村のお気に入りの甘味屋で大福を5つ買った。
いつもは一人一つという事で3つしか買わないが、2日前から佐助は留守だ。
こちらに来てしばらくは「平和ってサイコー」なんて言っていたのだが、すぐに宝野家の家事を一人ですべてこなしてしまうようになり、家事が終わっても暇だ暇だと呟いて、まことに何か用事はないかと10分おきに伺いに来る始末だった。
根っからの苦労人なんだなぁ、とまことはその姿を見てしみじみ思ったが、少し前に何か仕事を見つけたらしく、最近は毎日の家事が終わるとどこかにサッとでかけてしまう。
詳しくは教えてくれないのだが、嗅いだ事のない煙臭い匂いをたまに身にまとっているところをみるとカタギの仕事ではないらしい。
何もこの太平の世でまで・・・と幸村も苦々しい顔でそんな佐助を見ていたが、佐助が仕事を始めてから明らかに食卓が豪華になり、こうしてたまの長期出張の際には鬼の居ぬ間にとばかりにまことと二人で甘味を買い漁れるようになったので、何も言えぬままこうして今日も二人で買い物に来てしまっている。

「街がオレンジ・・・橙色なのは、ハロウィンだからです」

「はろうぃん?」

ところかしこにかかっているカボチャの飾りを指差してまことはうっすらとした知識を脳から引っ張り出す。

「えっと、確か外国のお祭りで、カボチャで魔よけをするのかな?それで、子供がお化けの仮装をして『お菓子をくれないと悪戯するぞ!』って言って近所にお菓子をもらいに行くんです!」

「なんと!悪戯か!では菓子を用意せねば・・・!・・・しかし、楽しそうな祭りでござるな!」

『お菓子をもらいに行く』という言葉に幸村の目がきらきらと輝き出し、そんな幸村を見てまことは頬を緩める。

「お菓子をあげてお化けを追い払うんです。・・・えっと、なんて言うんだっけかな・・・?」

『お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ』という意味の英語が出てこなくてまことは右頬をふくらませ、指でぷにぷにとつつきながらむむむ、と考える。
桃色の頬がぷくり、とふくらんだ様が夕日を照り返してたまらなくうまそうに見える、と幸村は食い入るようにその頬を見つめた。
じっとその頬を見つめていたので、近くまで寄ってきていた気配に気づかず、すぐそこで響いた子供の高い声に幸村は文字通り飛び上がった。

「Trick or treat!」

「あ、それ、それです!」とまことは足元で聞こえた声にぱぁ、と顔をほころばせる。
視線をやると、つんと尖った魔女のような帽子を被った子供がマントの袂からまことに手を出してじっと何かを待っている。
顔をほころばせたまま、まことは「ん?」と首をかしげ、幸村もその様子に子供を警戒してじり、と間合いを詰める。

「Trick or treatって言ってんだろ!菓子をよこさねーとイタズラするぜ!」

ぎっと帽子の下からまことを睨み上げる視線は、左目ひとつだけだった。
子供ながらに迫力のある視線の持ち主は、なかなかかなりかっこいい。大人になったら大変な色男になりそうだ、とぽんやりまことは思うが、そうしている内にも子供の視線はギリギリときつくなってゆく。
右目には刀の鍔らしいものがあたっていて、まことは『変わった仮装・・・地域のハロウィンのイベントかな?』とつり上がって行く視線に焦りながらポケットの中をぱふぱふと探る。

「む!これがはろうぃんと申すものか!どれ童、この店の大福はたいそううまいぞ!」

まことに向かって伸ばされていた手に幸村は横からぽん、とひとつ大福を乗せる。
しかし子供は手に乗った大福と幸村を隻眼でギッと睨むと、てい!とばかりに大福を地面に投げ捨てた。

「俺はそっちのちっこい奴の菓子が欲しいんだ!こんなしけた大福なんか欲しくない!」

地団太を踏みながら子供は再び手を差し出し、ザリ、とまことに一歩つめよる。
まことと幸村はコンクリートに転がった大福を目を見開いて見つめていたが、先に我に返った幸村が子供を叱ろうと大きく口を開けようとした瞬間、まことがひょい、としゃがんで大福を拾う。

「・・・ごめんね、僕お菓子持ってない・・・でも、食べ物にこんな事しちゃだめだよ?」

砂利が付いた大福を切なそうに見つめるまことに、きつかった子供の視線もおろ、と迷う。
汚れた大福をティッシュに包むと、幸村が持っていた甘味屋の袋からもう一つ大福を取り出し、まことは子供と目線を合わせて小さな手に大福を乗せてやった。

「これ、ほんとにおいしいよ。和菓子とかあんまり食べたことなかったけど、この大福ではまっちゃった。よかったら食べてみてね?」

間近でふふ、と微笑むまことに子供の頬が赤く染まってゆく。
その様子に幸村の鈍い色恋感知器が反応し、「まこと殿!某もとっ、とっく・・・徳利でござる!徳利でござる!」と必死にまことの注意を引こうとするが子供に鼻でハッと笑われる。

「なぁーにが徳利だって?Trick or treatだ。・・・でも、ちっこいの、これはこの徳利野郎の菓子だろ?」

キシシ、と尖った八重歯を見せて子供は笑う。
その笑いを浮かべた左目の瞳孔が縦に割れている、とまことが驚いていると不意に子供がまことの襟元を掴み寄せ、呆けていたまことの唇にぶちゅ、と自らの唇を押し当てた。

「お前には、Trickだ!」

今度こそ幸村が大声でわめき始め子供を捕まえようと手を伸ばすが、スルリと子供はかいくぐり、まことにちゅっと投げキッスをすると「せいぜいこのTrickを楽しめよ!」と捨て台詞を残し、マントの裾を翻して夕暮れの街に走り去っていった。
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