月明かり2


その日も、まこととたっぷり愛し合い、嫌がる乳首もめいいっぱいいじってやり、腫れた乳首と目元を濡れた手ぬぐいで冷やしてやり、そうしている内にまたムラムラとして───というのを何度か繰り返した夜だった。


夜半、就寝していた慶次は強烈な違和感を覚えて目を開けた。
天井を見つめた目は限界まで見開かれ、まことを抱いている腕が緊張で強張っている。
『これは違う』と身体中が訴えていた。
腕の中の大切な温もりが、何か別の物になってしまっている。
だと言うのに、湧いてくるのは違和感ばかりで不安や嫌悪が湧いてこないのはどういう事なのだろうか。
慶次はジリジリ、と見開いたままの瞳を横にずらしていく。



想像と違い、腕の中にいたのは「まこと」だった。
いや、まことだったが、「まこと」ではない「まこと」だった。

「・・・まこ?」

名を呼んだ声は小さく、掠れていた。
とろりと流れる髪、閉じられた瞼の形もまことの物だったが、しかしそのすべてが「まこと」とは違うと本能に訴えかけてくる。
・・・訴えかけられているのだが、しかしそれでも「まこと」なのには変わりなく、擦り寄ってくる柔らかな身体を胸元に迎え入れてしまった。

「ぅン・・・」
「ッ!」

どういう事なのだ、これは何なのだ、と恐る恐る前髪を掻き上げた慶次の指にむずがり、「まこと」はゆるゆると首を振り、顔を胸元に寄せてくる。
そのまま柔らかな足が己の足に絡みつき、くるぶしをくすぐった。
いつもならまことの足はふくらはぎまでしか届かない。
硬直している慶次の胸元に顔を埋めたまことは、そのままスンスンと鼻を鳴らし落ち着かなさそうに身動きを繰り返す。
こそこそと顎にあたる髪から嗅いだ事のない上等な香の薫りが立ち昇り、その薫りで『やっぱりこの「まこと」は「まこと」ではない!』と我に返った。
「しゃんぷぅ」や「せっけん」を使えなくなったまことからは、少し甘く、柔らかな、慶次の心と股間を熱くさせる体臭しかしないのだ。

誰なんだアンタは!俺のまことをどこへやったんだ!

そう胸元の存在に掴みかかり、叫び声を上げてしまいそうになった瞬間だった。
胸元のまことがガバリと身を上げ、こちらを覗き込んだのだった。



月明かりに照らされたまことは、やはり「まこと」だったが「まこと」ではなかった。
どういう事か一言で言うならば、そのまことは大人───青年だったのだ。



己の知るまことは、まだ少年で「こうこうせい」だった。
齢15・16にしては頬が丸く、今朝も散歩に出た所、朝日の下で淡い産毛のせいかそこがきらきらと光って見えた。
優しく垂れた瞳も丸みがちで幼い雰囲気を持っているというのに、夜、褥の中では頬だけではなく、潤ませた瞳の縁まで赤く上気させ慶次を誘惑するのだ。
そういうまことの「幼くもいやらしい」という、二面性というかちぐはぐな所も好んでいたのだが、今目の前にいる青年のまことは、ただただ──・・・ただただ、妖艶だった。

少しだけ、自分のまことよりもこの青年のまことの方が髪が長い。
それが小首をかしげるととろりと流れ、口元にかかるのがいやらしい。
もしや計算してやっているのだろうか、と訝しんでしまう程に完璧な動きだった。

「・・・慶次さん?」

髪がかかった唇は淡い色で艶やかだ。
その唇から聞こえた己の名前は戸惑いを含んでいたが甘い響きで、知った声よりも少しだけ低く耳障りのいいものだった。
ぱちぱち、と幾度か瞬きをして、まことは慶次の目元から口元、首元から頭の先まで視線をぐるりと一周させると、何かを得たようにまた小さく首を傾げ、苦笑を漏らした。
その仕草がまるでいたずらをした子供を許すような、変に大人びた様子で、慶次はまた一つ焦りを抱く。

「アンタ・・・まこ、まこと・・・だよな?」

情けなくも少しだけ震えた声に、まことは気付いていないはずはないのににこりと笑って頷いた。

「はい」
「まこと・・・まこ、だけど、アンタは俺の、まこじゃない・・・」
「はい」
「っ!俺のっ!俺のまこは、まことはどこにっ・・・!」
「慶次さん」

向かい合い、横寝の状態で問い詰められていたまことが、逆にずい、と胸元から身を乗り出した。
絡め合っていた足で踏ん張る事もできず、慶次はまことにされるがままに押し倒され、腰に跨られてしまった。
抵抗しようにも、己のまことではないと知りながらも「まこと」に手を出す事ができるはずもない。
まこともそれを分かっているのだろう。跨っただけで手足を拘束する様子はなく、胸元に手を置くと優しげに笑みを浮かべたまま、じぃっとこちらを見下ろしてくる。

「なっ、なんだよアンタッ!こんな、」
「慶次さん、僕は『貴方のまこと』じゃないけれど、けれども『慶次さんのまこと』です」
「意味がわからねぇっ!何言ってんだ!アンタは俺のまこじゃないって、」
「僕は、どんな僕でも、どこの僕でも、全部『慶次さんのまこと』なんですよ?」
「どこの・・・どんな・・・まこと・・・?」

腹の上のまことが身を屈め、ぐぐっと顔が近づいてくる。

「慶次さん、気付いているでしょう?僕、大きくなっているでしょう?───僕、先の世・・・ウン、もうちょっと、先の世の慶次さんの、まことなんです」

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