少年時を止める13


ポーズを解除すると、目の前のまことの背中が戦慄き、慌てて耳元を抑えこんだのが見えた。
さっきの自分の鼻息のせいだ、まこちゃんったら敏感なんだから、と佐助は鼻の下を伸ばしながらまことの小さな背中を後ろから抱きしめる。
ポーズをかける前のまことの告白、このまことの雰囲気、それは、つまり、やっぱり、勘違いではなく───

「・・・それってさ、まこちゃん・・・まこちゃんの事、全部俺様にくれるってコト?あは、俺様、まこちゃんの髪の毛一本残さないで頂いちゃうけど、いいのかな?」
「・・・・・・あ、あの、っ、」

胸元に抱き込んだ身体に顔を寄せ、耳元をくん、と嗅げば、再びまことの息が乱れる。

「佐助さんだってほんとに、ほんとにいいんですかっ?僕なんかで、っ、ぼく、こんな、だますように佐助さんを連れ込んで・・・今も、勝手に色々想像して、また、また白昼夢、見て・・・」
「はいはい、それは白昼夢じゃありませーん。俺様の視線で感じちゃったんでしょ?それに俺様は騙されてませんし、連れ込むなんて、」
「ち、違うんですっ!」

いつの日かのように、まことは佐助の言葉を遮ると小さな身体をぐっと緊張させた。

「僕は佐助さんとこうして付き合えて、すごく、すごく、すっごく嬉しくて、楽しくて、毎日幸せで・・・・・・これ以上望んだらバチがあたるって思うのに・・・・・・そう、思ってるのに、でも、僕、ずっと、佐助さんと、・・・・・・・・・・・・え、ぇ、え・・・っち、な、事・・・したくて・・・」
「え?」

どんどんと俯いて小声になっていくまことの言葉の後半が聞き取れず、思わず聞き返すとまことがガバリと勢いよく顔を上げ、振り向いた。
その表情は先ほどの声色から想像していた悲愴なモノではなく、いつもやや垂れ気味な眉がキュッと吊り上っており、覇気さえ感じられる。
そのあまり見た事のない、男らしいまことの表情に佐助は引き込まれるように手を伸ばすが、逆にまことにそれを掴まれた。

「まこちゃ、」
「前もっ!」

そのままドン、と胸元を押され、壁に押し付けられる。
いやにまことが積極的だ、と感動をしながら掴まれていない方の手でまことの腰を抱けば、その手も掴まれてまことの胸の前で拘束されてしまった。
簡単にふりほどけそうなそれを、しかし珍しく自分の内面を吐露しようとするまことを見つめながら佐助は黙って受けとめる。

「僕、前にっ!告白した時に言ったじゃないですか!僕、僕、ずっと佐助さんでイヤらしい事妄想してたって!なのに、そんなのに佐助さん、いつも無防備にキスして・・・っ!こうやって家に呼んだら簡単に着いてきてっ!佐助さん、分かってないですっ!ぼ、僕が昨日から、どんな事考えてたかとかっ!今だって白昼夢見て、佐助さんに耳、舐めらるの想像してっ、一人で興奮してたんですよっ?!」

ぐいぐいと佐助を壁に押し付け、下から睨み上げてくるまことは、いかんせん元の顔の造りと身長差のせいでどうにも迫力に欠けた。
迫力には欠けたが、潤んだ瞳で切羽詰まった雰囲気でこちらを見上げてくるその表情には佐助の腹の奥をめらりと煽り心臓の周りをこそこそと擽る魅力があり、思わずはぁ、と熱い溜息を吐いてしまう。
その溜息をどう取ったのか一瞬まことが怯んだが、すぐにわし掴んでいる佐助の両手に増々力を込め、じりじりと詰め寄ってくる。

「もう、引きませんッ!こう見えるけれどっ!僕だって男ですっ!佐助さん、もう、もう、逃がさないですから・・・!」

そして腕を引かれるがままに身をかがめると、逆にグッと背伸びをしたまことに唇を奪われた。
まことの勢いと反する、ふにゅん、とした柔らかい、優しい感触だった。
ふにゅん、ふにゅん、とまことは必死になって佐助の唇に唇を合わせ、息継ぎをするのにたまに顔を反らし、はふはふと荒く呼吸をしている。

「佐助さん・・・好き、好きです・・・」

佐助がまことにしてきたキスは、いつもまことの足をふらつかせる程の技量があった。
しかしまことが初めて佐助にしたこのキスは、ただ互いの唇を触れ合わせるだけの不器用で、ぎこちない、それでも恋慕や情欲がたっぷりとつまったキスで、次第に掴まれっぱなしの佐助の腕がぶるぶると震えはじめる。
すでに力が抜けていたまことの両手は、簡単に佐助の片方の大きな手の平に掴み返されてしまった。
もう片方の手で後頭部を押さえつけられるとまことの唇は佐助の薄い唇に覆われ、あっと言う間に形勢が逆転してしまう。

「まこちゃん、まこちゃん。俺様も、俺も好き、好き」

思う存分まことの唇を味わい、真っ赤な耳朶に告白を囁けば、腰が抜けたまことはよろめいて佐助の胸元に倒れ込んでくる。

「まこちゃん、俺様も告白した時言ったろ?男だったら好きな子にエロい事したいって、そういう妄想だって普通にするって。ゲイだろうがノーマルだろうが当たり前だと思うけど。まこちゃんが色々考えすぎなの」
「佐助さん・・・」

佐助を見上げるまことの目元は元のおっとりとした物に戻り、縁は赤く染まり、瞳は潤んでいた。
それが佐助に自分の気持ちをぶつけ拒否をされなかった事への安堵からなのか、それともキスで欲情したものなのかが分からなかったが、佐助は笑顔を返しながらまことの耳元に唇を寄せる。

「で、俺様がまこちゃんでどんな事妄想してたか教えてあげたいんだけど」

まこちゃんの部屋、どこ?と囁くと、小さな声で「二階です・・・」と返答があり、そのまま服の胸元をきゅっと握られる。
?

まことがこちらに悟られないように隠していた事は『佐助でイヤらしい事を妄想している』というモノだったようだ。
なんて初心でかわいいのだろうか、と小さく震えるまことを抱き上げ玄関の横にある階段をスキップでもしたい気分で上がっていく。

しかし、今は佐助の胸の中で小さく震えるまことが、そんな浮かれた佐助の度肝を抜くのはすぐの事だった。

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