少年時を止める11


何度も言いよどみ、鼻水を垂らし、嗚咽を漏らしながら、それでもまことは佐助に縋り付くようにして言葉を紡ぐ。

「僕、白昼夢を見るんです・・・!佐助さんに、抱き締められている夢・・・感触も、すごいリアルで、っく、」

まことの涙を拭っていた佐助の指が、思わず止まった。

「僕、いやらしいんです、変態なんですっ!昼間でも、学校でも、教室でも、幸村さんがいる時も!人がいっぱいいる所でも!佐助さんの姿を見るとそうやって、佐助さんに抱かれる白昼夢を見てっ!いつでも、どこでもそうやって、自分の願望に浸って!その時は友達だった佐助さんに、僕はこんな、いやらしい下心を持ってたんですっ!」

ごめんなさい、ごめんなさい、と嗚咽を漏らすまことに、佐助は土下座をしたい気持ちになった。
それは白昼夢なんかじゃない、自分がポーズ中にしていた小賢しいイタズラのせいだ。その感触は現実のものなのだ。
自分のせいでまことが苦しんでいるのは心苦しいが、ポーズの事を告白するのも超能力など信じてもらえるか分からないし、今まで自分がポーズの間にしてきた事を思い返すとつい気が引けてしまう。

「そ、そんな、そんな事、俺様だって思ってたし!ってか俺様のせいってか、なんていうか!好きな人に下心抱くのなんて当たり前じゃん!それに、それに!まこちゃんがそんな夢を見たのも俺様がきっとそういう目でまこちゃんを見ていたせいだから!謝るなら俺様の方だって!ごめんっ、まこちゃんごめんねっ!」
「な、な、なんでっ!僕です、僕がわるい・・・っぷ、」

縋り付くまことを佐助は再び抱きしめると小さな身体が強張った。
佐助には何度もしてきたこの行為が、まことにとっては初めての抱擁なのだ、と思うとその初々しい態度が申し訳ないのとかわいらしいのとでたまらない気分になる。

「・・・こうして抱きしめたかった・・・抱き締めるだけじゃなくて、もっと、もっと他の事だって・・・」
「ふ、ぅ、」

頤を上げれば未だ潤んでいる瞳と視線が合うが、そっと顔を近づけるとその瞳がゆらゆらと揺らめき、そっと瞼が閉じられた。
ふさふさした睫毛の隙間からツゥ、と涙が流れ、まるい頬を滑って唇の端に流れていく。
その唇を、ポーズをかけている時に奪わなくてよかった、と心底思う。
こうしてお互い初めての行為をするというのは、なんと幸福に満ちた事なのだろうか。

「まこちゃん・・・」
「さ・・・佐助さん・・・」

ふにゅ、と触れ合せた唇は、どちらが震えているのかわからなかった。
佐助もひどく緊張していたし、まことはキスをした瞬間からまた嗚咽を上げている。

「いっ、いいんですかっ、一緒にいたいって言っても・・・っ、っ、ほっ!ほんとうはっ!僕、キ、キスは白昼夢に見なかったけれどっ、でも、妄想ではもっと、キスなんかより、もっとすごい事想像してっ」
「っ、もっと、すごい、事・・・?」
「うっく、ひっ、ぼ、僕は、そういう変態なんですっ!いっぱい、ヘンな事、や、やらしい事を、妄想、して、」
「ま、待って、待って、待った!」

くっついたまま、あまりにもかわいい事を言うまことに佐助の自制心がめらりと焼き切れそうになる。
佐助の言葉通りに口を噤んだまことは、ひっく、ひっく、としゃくりあげていて、そんな姿もまたかわいらしい。

「・・・そういうのって俺様達の歳だったら当たり前じゃないの?・・・俺様もまこちゃんで、・・・エロい妄想してたって言ったら、変態って思う?」

告げた瞬間、まことの涙の膜が張っていた瞳が見開かれ、その縁がぽわっと赤く染まった。
唇がわなわなと震え、目元の赤みが耳たぶまで浸食した頃「う、うれしい・・・」という小声の返答が聞こえた。
その吐息混じりの小声が佐助の腹の奥にズクンとした重い熱を注ぐ。
同時に、この子は本当に俺が好きなんだ、自分にいやらしい事をされても喜んでくれるのだ、と思うと心には羽が生えたように浮き足立ってはしゃぎまわりたくなってしまう。
このままここで・・・いや、シュラフしかないし・・・とザッと周囲に視線をやり、脳内で色々な計算してしまった佐助だが、壁に貼ってある山岳部員達の集合写真が目に入り、その中央にこの場を提供し、まことと自分の気持ちをなんとなく知った風な前田慶次の笑顔を見つけて一気に気分が冷めてしまった。

「・・・佐助さん、本当に僕で、いいんですか?僕、小柄ですけどちゃんと男ですよ?」
「もちろん。まこちゃんもほんっとーに俺様でいいワケ?俺様こう見えてかなり腹黒よ?飄々としてるって結構言われるけどさぁ、ちょっと・・・結構、かなり、もんのすごく・・・嫉妬深いし」
「嫉妬・・・」
「さっきも言ったろ?前田の旦那とか、まこちゃんが前に好きだったセンセーとか、すごく嫉妬する・・・こんな俺様でもいいの?」
「・・・・・・そ、それも、嫉妬されるのも嬉しいって言ったら・・・佐助さん・・・呆れますか?」

まことの瞳には、怯えだけではなくどこか挑発的で蠱惑的な色が浮かんでいた。
「呆れるわけないでしょ」という言葉は、その瞳に吸い寄せられて重ねてしまった唇のせいで言えなかったが、キスの後、幸せそうに笑むまことには十分に伝わっているようで佐助も同じように笑みを浮かべる。

「佐助さん・・・僕も、好きです・・・僕も、僕も佐助さんと一緒にいたい・・・佐助さんに何かあったら、僕だって佐助さんを助けたいです・・・」
「まこ、ちゃ・・・っく、」

そうしてそっと寄り添った胸元から聞こえたまことの正真正銘の愛の告白に、佐助の脳裏にまことと出会った入学式から現在までの出来事が走馬灯のように流れ、何故か涙がこみあげてきてしまった。
ポーズをかけて拭ってしまおうか、と思ったが、まことは声を詰まらせた佐助の顔を見上げる事もなく、ただ静かに胸元に頬を寄せ、わかっているとでも言うように背中をそっと撫でてくれている。
その手がいつかの幸村のように温かく、心に染みて、佐助の涙腺を増々緩ませる。
その温かさをいつまでも感じていたくて、佐助は小さく鼻をすすりながら、胸元に囲ったまことに縋るように、いつまでも抱き締めていた。

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