少年時を止める6


そのおかしな体験──時が止まってしまう──なんて摩訶不思議な事はもう二度とないと思っていたが、それが間違いだと気づいたのはすぐの事だった。
学校の休み時間、家にいる時、まことや幸村達と遊んでいる時、ふとした瞬間に時が止まり動いているのは自分一人きりになってしまう。
どうやらこれはやっぱり自分がやっているようだ、と気づいたのは最初に時を止めた時から二日後、四回目に時が止まってしまった時だった。


この力は佐助の心中に悪意や嫉妬や欲望などのどろどろした気持ちが湧くと発動するようで、その時はまことと幸村が余りにも仲良さそうに話をしている姿を見て激しく嫉妬をしていたら時が止まってしまったのだ。
まこととは初めて時を止めた日以来何故かぎこちない関係になっていて、あの時どこか不自然だったまことに気づいていながらも幸村に構ってつい流してしまった事を佐助は悔やみに悔やんでいた。
まことは時が止まっていた事に気づいた様子はなかったし、あの時確かに自分に好意を抱いていた。じゃなければ男同士なのに『抱き締められて嬉しかった』なんて言葉出てくるはずがない。あんな熱っぽい瞳でこちらを見つめてくるはずがないのだ。なのになぜ、どうして今はこんなにも避けられているのだろうか。何か自分が至らなかったのか?どうして、なんで・・・───。
佐助の瞳がどんよりと暗く澱んだ瞬間、世界は時を止めた。


そうして、時が止まったおかげで二日ぶりにまじまじと近距離でまことを見つめる事が出来たが、幸村に笑顔を向けているまことからは、当たり前だがあの日の熱っぽい雰囲気は欠片もなく、佐助は増々悲しくて切なくて虚しくて、腹の奥がからっぽになって冷たい風が吹いているような気持ちになってしまう。
自分と合うと反らされてしまう、この大きく輝いた瞳。
青ざめて強張ってしまう頬は、今は桃色に艶めいている。
堅く結ばれる唇は、綻んで笑みを描いて幸村に何かを語りかけている。

「まこちゃん・・・俺、何したのかな・・・?まこちゃん・・・ねぇ、まこちゃん・・・」

このままこの細い身体を思い切り抱き締めて、久しぶりの体温と体臭を感じたいが、まことの目の前には今幸村が立っている。
最初の時のように『今、幸村さんにぎゅってされたのかと思いました』なんて幸村を意識され始められたらたまったもんじゃない・・・と考え、ハッとした。

時を止めている間に感じた感触は、時を解除した時にまとめて感受するようだった。
だから二度ぶつかられた伊達は二乗した衝撃にふっとんでいったし、まことは愛撫に近い抱擁の感触を一気に受け、顔を真っ赤に染めていた。



まことは、素直で、だまされやすく、流されやすい。
何度も、何度も何度も時を止め、この前と同じように、その間に己の感触を擦り込んだら。まことは嫌でも自分を意識せざるおえなくなるのではないか。



佐助は脳裏に浮かんでしまった計画に粗がないか一瞬思考したが「今すぐこのまこととの殺伐とした関係を打破したい」という気持ちに押されて『ま、なんとかなるっしょ』とすぐさまGOサインを出した。
その瞬間が、佐助が不思議な力を完全に受け入れた瞬間だったのかもしれない。
今まで『ふいに』『いきなり』発動していた力を、当たり前のようにコントロールできるようになったのだ。
今は幸村に笑顔を向けているまことを見つめ、佐助がチロリと唇を一舐めすると時が流れ始める。

「──れで、大福が飛んでいっちゃったんです!」
「なんと!それは一大事ではないか!」
「あは、そりゃぁ確かに旦那にとっては一大事かもねぇ、まこちゃん」

無理矢理に会話に混ざればハッとしたようにまことがこちらに目を向ける。

『いまだ、』

そう思えばフ、と周囲のざわめきが消えた。
まこともきょとり、とした顔で自分を見つめたまま動きを止める。
作為的な状況とはいえ佐助は久しぶりに受けるまことの視線に胸を高鳴らせた。

「・・・まこちゃん・・・」

まことは首と視線を少しこちらに向けただけで、身体の正面は幸村を向いていた。
本当は真正面から思い切り抱き締めて、またあの体がぴったりと重なる心地を味わいたかったのだが、仕方なく後ろからまことの小柄な身体を思う存分抱き締めた。
柔らかい身体。肉質がいいのだろうか。腰回りを撫でてていた手が下の方へとずれて行ってしまいそうなのを必死でこらえ、振り向いている方とは逆の首筋に鼻先を埋めて胸いっぱいに匂いを嗅ぐ。
白く細いうなじに生えている一等細く柔らかい毛に唇を埋め、ほわほわと擽ってくる産毛を食むとツンツンと引っ張った。

「まこちゃん・・・好き、好きなんだ・・・」

情けない程に声が震えている。
実際、胸元のまことが温かくて、その温かさが切なくて、泣いてしまいそうだった。
どうして無視をするのか。どうして避けるのか。
あの時まで自分たちの仲はいい雰囲気だったのに。

「まこちゃん・・・これ以上俺の事、ないがしろにすると、もっと酷い事しちゃうかもだから・・・・・・そんな事したくない。まこちゃんと、きちんと、普通に仲良くなっていきたいんだ・・・お願い、俺に酷い事、させないで・・・」

震える声で耳元に囁いて最後にぎゅう、と抱き締める。
桃色の唇にもそそられたけれど、今回もぐっと我慢をした。
- 14 -
[*前] | [次#]
ページ:

トップに戻る
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -