少年時を止める4




『何をされたか分からない』


宙に浮いたままのボール、動かない人物、止まった時計。
目の前の伊達が邪魔で強く押しのけると、見慣れた小さなかわいらしい頭が見えた。
やはりまことも止まったまま、恥ずかしげな笑顔を浮かべて幸せそうに笑んでいる。
どうやら『今の状況』は、自分がまことの「好き」という発言を聞いてから、怒って席を立つ前までの間に止まってしまい出来上がったようだ。
先ほどの妄想のまこととはまた違うが、今のまことも俺の事で頭をいっぱいにしてこうして微笑んでいるのだろう、と思うとこんな状況なのに思わず顔がにやけてしまう。

「まこ、ちゃん・・・まこちゃん、動かないの・・・かな?いや、動けないんだよね・・・?」

そうして先ほど乱暴に立ったまま放り投げられていた椅子を戻し、まことの目の間に座り直す。
頬杖をついてまことの顔を覗き込み、痒くもない鼻の頭を掻き、そわそわと身を揺すり、はぁ、と熱い吐息を漏らす。

「まこちゃん・・・こんな場合じゃないかもだけどさぁ・・・ちょっとだけ、ちょっとだけならいい、よね?」

誰に何を断っているのか、変に言い訳じみた言葉を繰り返し呟いてしまう。
やはりこんなに近づいた事がないという程にまことに顔を近づけ、じぃ、とその笑顔を見つめ「か、かわいい〜!」と机を叩き悶える。
ふくふくとした桃色の頬に淡い産毛が生えている。ピンク色の唇からチラリと白い小さな歯が見えている。
もうちょっと、あとちょっとだけ、とジリジリ身を寄せるとまことの体臭だろうか、甘く優しい匂いを感じ、バクン、と心拍数が上がり身の内側が熱く燃える。

「っ、ン、まこ、ちゃ、いい匂い、ッは、スッゲ、」

もっとその匂いを嗅ぎたい。
机に両手を突き、身を乗り出してまことの首元に鼻を埋め、荒く息を吸う。
胸の中いっぱいにまことの体臭を吸い込むと、あまりの興奮にクラクラと眩暈がした。

『やぁ、佐助さんっ!くすぐったい!』

まことが正気だったらそんな事を言われるだろう、と妄想をする。
それよりも恥ずかしがって逃げてしまうだろうか?
チラ、と横目を使うと先ほどと変わらぬまことの笑顔がそこにある。
丸い瞳を幸せそうに閉じて、頬を紅潮させ、唇を微笑ませて、桃色の唇、少しだけ緩んでピンクの口内が見えて──・・・

「・・・まこちゃん・・・」

頭の端で『いや、何をする気だって、ダメダメダメ、まこちゃんに対して失礼でしょ、そう思ってるから匂いは嗅いじゃったけれど触ってはいなかったんでしょ!こういう事はお互いに意思を確認してからじゃないとでしょ!』と天使の自分が怒っている。
それとは別に、腹の底、下半身の方からは『何をされたか分からないんだから今しかないんじゃないの?さっきみたいに爆発してまこちゃんを悲しがらせるよりも、こういうチャンスを生かしてたまにガス抜きしておいた方がお互いの為になるんじゃない?』と悪魔の自分がもっともらしい言い訳を重ねている。
もちろん、すぐに腹の底からふつふつと込みあがる悪魔の熱に頭の中の冷静な天使は焼き飛ばされ、佐助は激しく音を立てながら机をどけるとまことの薄い肩に両手を置く。
今までまことと一番密着したのはふざけて肩を抱いた時だ。それ以上の接触は今まではなかった。そう、今までは。
はぁ、はぁ、と止まらない呼吸を喉を鳴らして飲みこんで無理矢理に止める。
この薄い肩、細い身体を今、好きにできるのだ。

「っ、ぁ、まこちゃん、まこちゃん、ああっ、」

そのままぎゅう、と小さな身体を胸に抱きしめ、ぐりぐりと柔らかな髪に頬を擦り付ければ優しい花のシャンプーの匂いが立ち昇った。その匂いが自分の想像するまことのイメージにぴったりで嬉しくなる。
まことの身体は自分の体のサイズに合っていた。
自分の胸の中に完全に囲めて、筋肉の凹凸がちょうどはまるのだ。
体の相性がいい。きっと自分とまことは何かの運命が絡んでいるに違いない。
熱で沸いた頭でそんな事を思う。
「まこちゃん、まこちゃんかわいい、まこちゃん、」そう呟きながら髪に、瞼に、頬に、自分の頬を擦り付け、柔らかい身体を両手で撫でまわしていると、にゅるり、と何か熱く濡れたものに頬をこすられた。
それがまことの唇の内側の粘膜だと理解した瞬間、下着の中でペニスが跳ねた。

「まこ、ちゃ、っ、ダメ、ダメだって、皆、見てるのに、」

そんな事を言いながら、この異常な雰囲気に酔いしれてしまい、まことの頤を持ち上げる。
僅かに残った理性でまことに擦りつけないように腰を引き「悪い子、だね」と囁いて、思うがままにその唇を奪おうとして、ビタリ、と体が止まってしまった。
視界の端に見慣れた物、まことの肩越しにこちらに向かって笑顔で駆け寄ろうとしている幸村が映ってしまったせいだ。

「・・・旦那・・・・・・・・・ハァ・・・ったく・・・」

付き合いが長い幸村だからか、親兄弟の前に立たされている気分になってしまい、佐助は小さく溜息を零すとまことの顎から手を引いた。
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