狭い部屋6

まことは射精をした後、すぐにうとうととしてしまう。

「まこ、ほら、もうすぐ『いちじかん』だろ?」

まだまことの中に入ったままの慶次は上着から何までまことと自分の精液で汚れてしまっている。
えれべえたあを直してくれる者が来る前に、せめてこの格好だけでもなんとかしたい。
まことの尻穴からペニスを抜くと、ぢゅぶ、と空気を含んだ水音が立ち、真っ赤に腫れた尻穴から大量の精液がごぶりと溢れ出てきた。
それに慶次はごくり、と喉を鳴らすが、今はそんな場合ではない。
下半身を白い体液で汚し、頬を赤らめている垂涎もののまことの姿を他の奴に見せる訳にはいかない。
意識が朦朧としているまことは、そんな慶次の首に腕をまわし「慶次さん・・・、ぼく、けいじさんのお嫁さんになるの・・・」とうっとりと目をつぶる。
服を調えてやりながら、そのかわいらしい小さな頭をそっと撫でる。

「・・・そういやさ、まこ、さっき外歩いてる時、まこが厠に行ったろ?」

「・・・はい・・・」

「そん時さ、帰りに会った男って、何だったんだ?すっげえ親しそうな・・・」

「・・・おとこの、人・・・?」

眠気が霧のようにかかる頭の中で、まことはぼんやりと思い出す。
トイレから返る途中、人ごみの中で声をかけてきたのは懐かしい顔だった。
中学校の担任の先生で、相変わらず汗をかいていたがまことを見つけて笑いかけてくれた顔はとっても爽やかで変わっていなかった。

「せんせい、です・・・、中学校の・・・お世話になった、ひと・・・」

「ちゅうがっこう・・・?・・・お世話って、何のだよ」

「前に通っていた、勉強するところです・・・、勉強、教えてもらったんです」

「・・・でも、ずいぶん仲良さそうで・・・、あーもう!すまねえ!正直俺、あの男に嫉妬した!」

難しい顔をして何かを考えていた慶次はそう言うとガバリとまことに頭を下げた。
なんて狭量なんだろうと呆れられるかと思った慶次だが、まことはきょん、と自分の目の前で揺れるポニーテールを見て、その隙間から窺える顰められている慶次の眉間を指先でくすぐった。

「ふ、ふふ、僕も、いつもそうです。慶次さんのお客さん、うらやましいです・・・。早くお酒飲めるようになって、ぼくも慶次さんのお店、行きたいです・・・」

ふぁ、とまことはあくびをする。
慶次はその言葉に目を見開く。
ほすとの仕事はこの世界でも特別な目で見られているとはなんとなく感じていたが、まことは今まで慶次の仕事に対して何か言った事はなかった。
こんな事を思っていてくれたなんて。

「っ!まこ、ごめんな、俺なんか色々考えちまって、まこの事忘れてどんどん歩いて・・・あんな怖い思いさせちまって・・・」

ぎゅう、とキツく抱きしめるとまことも胸の中で小さく身じろぎ、「でも、だからわかったんです」と呟く。
ふ、と上げた顔は意外にもしっかりしており、慶次の目をひたりと見上げてくる。

「もうだめかもしれないって思ったら、慶次さんにちゃんと言っておけばよかったって思ったんです。慶次さんが帰っちゃうのかも、帰りたいのかもって一人でぐるぐる悩んでるんだったら、どこにでも着いていきますって、連れてってって言えばよかったって」

「慶次さん、もう、離しちゃいやです・・・」そう言ってまことは今度こそそっと目を閉じてしまった。

「・・・・・・ああ、ああ、離しやしないさ、離しやしない」

聞こえてはいないだろうまことの耳元に慶次は何度も呟き続ける。
腕に抱いた小さくて暖かい存在に込み上がってゆく感情は、恋以上の何かだった。
それからしばらく立った後、濃い精臭が籠った狭いエレベーターにやっと涼しい空気が流れ込んできた。
その匂いにぎょっとした若い修理工の男は、謝罪の言葉もまばらに顔を赤くしたり青くしたりしながら眠っているまことをちらちらと盗み見ている。
慶次はそんな男をキツく睨みつけ、まことを隠すように抱き抱えると「ありがとな」と一言だけ感謝を伝えて数刻ぶりに狭い部屋を出た。
長い間閉じ込められていた気がしたが、外は先程までと変わらず明るく日が照っている。

まことを軽々と担ぎ上げた慶次はたんたんと階段を降りてゆく。
もうすぐ地上に出る、といったところの階段の踊り場で慶次はピタリと足を止めると、薄暗い曲がり角にちらりと視線をやり一つため息を吐いた。

「・・・今回は見逃すけど、次この子に手ぇ出したら・・・」

ダン!と慶次が右手を叩き付けたコンクリートの壁は、拳の形に穴があき無数のひび割れがメリメリと走ってゆく。
小さく「やっべ!」と囁く声と、逃げ出す足音を見送ると、慶次は「イテテ・・・」と手を振った。
なんとなく赤く腫れただけのそこだったが、胸に抱えたこの子は心底心配してくれて、かいがいしく看病してくれるだろう。
これからはどこに居ても、自分が怪我をするとずっとそうしてこの子が看病してくれるのだ。

「俺たち、もう夫婦だもんな・・・」

叫びだしたいくらいの熱い思いが体の中を渦巻くが、腕の中で幸せそうに眠っている子を起こしてはならない、とニヤニヤと顔をやに下げるだけに必死にとどめる。
慶次は万感の思いでまことに頬ずりをすると、明るい喧噪の街に軽快な一歩を踏み出した。
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