少年時を止める1


自分では普通だと思っていた佐助の人生は、高校生になって幾分か波乱万丈になったと思う。
まず一つ、恋人ができた。
これは誰にだってできる普通の事だろうけれども、その恋人の性別が同性なのはマイノリティではないだろうか。
目の前の席に座り一生懸命に、昨日の夜に友達と電話をしてこんな話を聞いた、あんな事をしゃべったと伝えてくる恋人・まことに、佐助は笑顔を浮かべながら相槌を打ってやる。

それともう一つ、超能力が使えるようになった。
テレビや映画等のメディアには溢れかえっている『超能力』というものを、当たり前だが佐助はフィクションだと思っていた。種も、仕掛けもあるエンタテイメントだと。
なのに、それが使えるようになっていた。何故か、ふいに、突然、だ。
雷に打たれたとか、宇宙人に誘拐されたとか、そんな特別な事は何もなく、本当にふいに超能力が開花してしまったのだ。

「──それでですね、慶次さん、わからなくて利家さんのパンツ穿いちゃったって言うんです!」
「あはは、そりゃーお互いに災難だったねー」
「本当ですよね!それでですね、慶次さんったら──・・・」

他の男の事を延々と語る恋人の笑顔を見つめながら、佐助はまことに恋をして、この超能力を手に入れた時の事を思い出していた。



佐助がまことに恋をしたのは、この婆娑羅男子高等学校に足を一歩踏み入れた途端の事だった。
校門から校舎までのプロムナード脇が桜並木になっているのだが、入学式の日に校門を跨ごうとした瞬間、その下を歩くまことの細い背中に目を引かれ、桜を見上げる横顔を見て胸を高鳴らせ、そっと浮かべた微笑みに心を奪われてしまった。
右足を踏み出して左足と交差させ再び地面を踏みしめる、その一歩を踏む間に佐助は恋に落ちてしまったのだ。見事なまでの一目惚れだった。
すんなりと同性への恋を自覚した佐助は、瞬時に彼と近づく為の方法を数通り脳裏に巡らせると優しく吹く春風に乱された髪を手櫛で整えバンダナを締め直す。
桜吹雪にはしゃいでいる幼馴染の幸村を置いて彼に駆け寄り「背中、毛虫ついてるよ?」と声をかければその細い背中が飛び跳ねた。

「あー動かないで、襟から入っちゃいそう・・・・・・って、うわわっ!コレ毛虫じゃなくて・・・!」

そのまま何も付いていない新品の綺麗な制服の襟首を指先でつつき、パパッとワザとらしく指を払う仕草を見せれば彼は簡単にだまされたようで増々体を強張らせる。
そんな姿に『ナンパとかキャッチとか、引っかかりやすいタイプかも。俺がちゃんと守ってあげなきゃ』なんて所まで思考が一気に加速してしまう。

「・・・毛虫じゃなくて、糸くずだったー、あはー、ごめんねー?・・・って、そんなびっくりしちゃった?」

ちょっと小馬鹿にしたような態度にどんな反応をしてくれるのだろう、と未だ固まったままの少年の顔を覗き込めば、ぱちぱち、と幾度か瞬きをした後「ありがとう、ございます・・・」と恥ずかしげにはにかみながらもお礼をくれた。

「毛虫が首から中に・・・って思ったらびっくりしちゃって・・・」
「佐助も早合点だろう。まだ毛虫の時期ではないではないか。葉桜になってからが危ないのだ」
「あーはいはい、なんか本当ごめんねー?」
「いえ!いえいえ!気にしないでくださいっ!糸くず、取って下さってありがとうございます!・・・あの、あのっ、僕、今日から新入生で、宝野まことと言います、その、あの・・・お、おふたりも、新入生ですか?」

恥ずかしさとは別に頬を桃色に染めて、期待した瞳でこちらを見上げる姿は文句なしにかわいらしかった。
彼が話せば話す程、身動きすればする程に、佐助の脳内ノートの真新しいページにできた「宝野まこと」欄に、細い首、笑顔がかわいい、大人しめで素直な性格、声もいい、だまされやすいかも、小さな手がかわいい、幼い、庇護対象、唇も舌もピンク、とどんどん好意的だけれども、わけのわからない情報が書き込まれていく。

「俺も新入生の真田幸村でござる!宝野殿、よろしく頼むっ!」
「俺様も同じく新入生の猿飛佐助。よろしくね、宝野まこと・・・ん、まこちゃんっ」

表面上はいつも通りの自分を演じながら佐助は初めて同性に対して抱いた恋心に少々混乱し、舞い上がり、それでもまことの高校生第一号の友人の座を頂く事に成功した。
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