『そんな顔をして。なぁにを不安に思っているんだよ?』
そう優しく声をかけてキスをして、安心させて微笑ましてやりたい気持ちと、このままイジメて瞳に浮かんでいる涙をぼろぼろと零れさせてやりたい気持ちが同時に湧く。
かわいらしい。かわいらしくて、べたべたと甘やかして、そしていっぱいいじめてやりたい。
激しい興奮と初めて人に抱く嗜虐心に、ペニスを咥えた慶次の瞳がギラギラとにぶく光ったのに、まことの身体はビクゥ、と大きく痙攣する。
同時に青ざめていた顔にカァアと血の気が戻り、まことの潤んでいた瞳がくしゃり、と歪んだ。
肉付きのいい太腿がぎゅう、と慶次の頭を挟みこみ、痙攣していた腰がぶるりと震え、次の瞬間じゅわりと喉奥に粘液がかかった。
「ンッ、───ッ!っ、ハッ、はぅ、ぁ、あっ!けい、じ、さ・・・ご、ごめ、な、さい!」
まことの精液だ。
まことが射精をしたのだ、自分の口内で。
今舌に感じるこのとろとろとした苦味は、まことの精液だ。
「けいじさ、ごめんなさい、おとこ、僕、おとこにもどって、っ、こ、こんなっ!く、口に・・・っご、ごめんなさいっ!ごめんなさいぃ・・・けいじさん、ごめんなさいぃ・・・」
射精をしてしまったペニスを未だ口から離さない慶次に、まことは申し訳なさと不安とでヒィヒィと涙を流しながらただただ謝罪を繰り返す。
冷静に考えればまことは寝込みを襲われていて、謝らなければならないのは慶次の方だというのに、男に戻ってしまった自分を女の時と変わらずにかわいがってくれるとは露とも思っていない哀れな様子に、慶次は沸き立つ嗜虐心を抑えてまことにそっと暖かな手を伸ばす。
「まこ、まこ・・・なんであやまんのさ。寝てんのにやらしい事しちゃったのは俺だし、謝んのは俺の方、だろ?もう、ほぉら、泣くなって」
やっと下半身から頭を離し、逃げようと身をよじるまことの肩を抱く。
そのまま額にキスをしようと迫った慶次の口元から漂った久しぶりに嗅ぐ己の精臭に、まことはやっぱり顔を歪めると小さくしゃくりあげて涙をこぼす。
「だ、って、けいじさ、おとこに、ぼく、おとこに、も、も、もどって、なのに、こんな、け、けいじさんに、やらしい事、されて、よ、よ、よろこんで、こんな、こんな、き、きもちわる、い」
泣きじゃくる声も昨日までの女の子のものとは違い、以前聞きなれていた男のものに戻っている事が、まことの心を深く抉る。男なのにあんなに喘いで、こんなに泣きわめくなんて。
涙を拭う指も骨ばっているように感じるし、射精するペニスもはえている。
そして、何よりもあの女の子の象徴である胸がなくなってしまっているのだ。
昨日まではこんな風に抱かれれば、二人の間で胸がつぶれて苦しくて、でもそれがなんだか嬉しかった。
慶次さんはあの胸が大好きだと言っていた。大きくて、柔らかい女の人の胸。
まことがちらりと視線を下すと、あのたわわな胸は元の男だったぺたんこの自分の胸へと変わり、そして久しぶりに目にする忌々しい乳首が勃起しているのにサッと顔を青くする。
「ひ、ひ、や、ヤ、」
ぐ、と自分に伸し掛かる慶次を押し返し、まことは胸元を隠すと慶次のきょとんとした視線から逃れようと小さく小さく身を縮める。
「っ、ご、ごめんなさ、っぅ、うう、っく、ご、ごめな、さ、きもちわるい、ぼく、ぼく、こんな、きもちわるいっ!」
縮まった身体はすぐに温かい慶次の体に覆われた。
シーツに埋もれて少しでも身を隠そうするまことの怯えきった姿に、慶次は先程まで感じていた嗜虐心など遙か遠くに飛ばし去り、少しでもまことの怯えを消し拭おうと震える肩に、ちょこりと除く耳朶に、幾度も優しく唇を落とす。
「まこ、何がだよ。何がキモチワルイのさ。言っただろ?俺はまこが男でも女でも大好きだって!もちろんおっぱいがでっかいまこも好きだけどさ、男でぺたんこな胸で、こんなに俺で感じてくれる乳首もすっげー好き・・・ほら、わかるだろ?」
小さな身体を胸に抱き、その腿に、ぐ、と自分の固く勃起をしている股間を擦り付ける。
『自分は男でも女でもまことに興奮できる』という証明の熱は、ショックで怯え震えていたまことの心を少しだけ柔らかくさせた。
「けい、じさん・・・」
「あとその声も好きだ。ちょっとだけ低くなってて、その声で『んっ』とか『あっ』とか『けいじさぁん、だいすきぃ』とか言われて・・・なんかすっげぇドキドキした・・・って、いたっ!まこ!つねるなって!いたた!ごめん、ごめんって!」
まことの声真似のつもりだろうか、鼻がかった舌足らずの声を上げる慶次に、まことはいつものからかわれた時と同じように目の前の慶次の手の甲をきゅう、と抓る。
そしてこちらもいつもの通りに情けない声で大げさに痛がって謝る慶次に、まことは小さく鼻をすするとそっとシーツに押し付けていた顔を上げた。
「・・・まこ、本当に俺、まこが何でも・・・男でも、女でも、あとは・・・うん、宇宙人でも好きだ。・・・最初に言ったろ?俺はまこが、まこだから好きなんだって」
自分を見下ろす慶次の瞳は、まことが恐怖していた蔑みや嫌悪などかけらもない、優しく温かい笑みを浮かべていた。
強張っていたまことの心と身体がその柔らかな視線と声で次第に緩くほぐれていく。
慶次さんはいつもこうして、どんな自分でも肯定してくれる。
この高校生の慶次さんも、あっちの大人の慶次さんもだ。
それをいつも疑って、うじうじと悩んでしまう自分が嫌いだった。
けれどもそんな自分が嫌いな自分の事さえ、慶次さんは「健気でかわいい」なんて言ってキスをしてくれる。そしてこんな男になった自分のペニスさえ咥えて勃起してくれるのだ。
慶次さんを好きにならないわけがない。
まことは先ほどまでとは違った意味を持つ涙で瞳を潤ませながら、自分に覆いかぶさる慶次に向かって指を伸ばす。
すぐにその指は慶次に捕えられ「まこの手、ちんちゃい手」と笑いながら頬擦りをされた。
「慶次さん・・・」
「ん、」
小さく名前を呼べば嬉しそうに頷き、瞳を閉じて顔を寄せてくる。
まことは反射的に引いてしまいそうになった身体を震わせるだけに止め、僅かな間、じぃ、と近づいてくる慶次の精悍な顔を見直した。
目尻にうっすらと浮かぶ笑い皺、少しだけ上がった口角、サラリと広い肩から流れ落ちる髪、ツンと尖らせられた厚い唇。
慶次さんは、本当に、全部、すべてがかっこいい。
たまにいやらしくておバカなところもあるけれど、そこも全部かっこいい。
近づいてくる慶次の顔を見ていると、まことの身体の末端──耳たぶの先や指の先、そして皮が薄い部分──瞼や胸の先が、じわじわと熱くなってくる。
朝の爽やかな空気に冷めていた身体がぽっぽと火照りはじめ、まことはとうとう目の前にあるツンと尖った慶次の唇が放っておけなくなり、握られていた手で慶次の指先をきつく握り返すと、自ら慶次にむしゃぶりついた。