慶次は夢を見ていた。幸せな夢だ。腕の中にまことが二人いる。
「あー・・・幸せ・・・へへへ・・・」
左右の腕にまことの小さな頭が乗っていて、ピリピリと痺れてしまっているがその痛みすら心地よい。
右の頭の頭頂部にちゅ、と唇を落とし、左の頭の頭頂部にうりうりと鼻頭を擦り付け、でろりと鼻の下を伸ばして慶次は御満悦だった。
「ん、慶次さん・・・?」
「う、慶次さん・・・?」
頭頂部の感触で目を覚ましたのか、こしこしと目元を擦り腕の中からこちらを見上げたまことは、どちらも同じ顔をしているようで、しかしどこか違うものだった。
まだ眠気を感じているのか蕩けた表情で慶次を見つめ、そしてお互いの存在に気付いたのかきょとん、と瞬きをして不思議そうに手を伸ばしあう。
慶次の目の前で二人のまことは指を絡ませると、互いを確認するようにそれを握り合い、何を感じたのだろうかにっこりと微笑み合ってどんどんと顔を近づけていく。
「っ、」
横になった慶次の胸の上に乗り上げ、小首を傾げあって唇を重ねる二人に慶次は少しの嫉妬となんともいえない興奮を感じて、自分も混ぜてもらおうと身を起こす。
「「慶次さん」」
そこで慶次は気が付いた。
頬を寄せ合って自分の上でぴったりと身体をくっつけ合う二人のまことは、一人は女の子で一人は男の子だった。
二人とも性差があれど紛れもない自分の愛する『まこと』だ、と慶次は本能的に理解したが、どちらに手を伸ばしていいものかと思わず手を止めてしまった。
「「慶次さん、どっち?」」
その心の迷いを突くかのように、まこと達は甘い声で慶次に問いかける。
右側のまことが女の子だと思ったが、左側のまことに胸がある気がする。
左側のまことが男の子だと思ったが、右側の腿にコリコリとしたナニかが当っている気がする。
二人ともぴったりと身体をくっつけているせいで、むにゅりと押しつぶされて形を変えた乳房がどちらのものだか分らない。
「えっと・・・あは、あはは・・・」
「「どっち?ねぇ、慶次さん、どっち?」」
答えを返さない慶次に二人は焦れた様に身を揺すり、慶次に擦り寄ってくる。
幸せだ。幸せだけれども、困る。
「えっとー・・・あはは・・・あはははは・・・」
男の子のまことと、女の子のまこと。
どちらがいいかと聞かれてたら『女の子のまこと』が馴染み深いが、こうして並ばれるとどちらがどっちかわからない。
笑って誤魔化す事しかできない慶次に、二人のまことは次第にうるりと瞳を潤ませていく。
「・・・慶次さんのへんたい・・・」
「・・・慶次さんのえっち・・・」
しばらくあやふやな問答を繰り返していたが、とうとう二人はツン、とそっぽを向くと、慶次の上から降り、いつの間にか出来ていた右の通路と左の通路に入っていってしまう。
「えっ、あっ!?ちょっと!まこ!まこっ!まこーっ!」
ぷりん、と尻を揺らしながら駆け去っていく後姿は二人とも同じように色っぽくかわいらしいので、ここでも慶次は迷ってしまった。
どちらを追いかけたらいいものか。
急に軽くて寒くなった腕の中が切なくて、寂しくて、慶次は大声でまことを呼び続けたが、とうとうその場から動けなく、どちらも追いかけることが出来なかった。