詰襟セーター3


慶次がドアをノックするのは珍しい。
初対面の幸村の部屋の時も勝手に入ってきていたし、仲良くなってからまことの部屋に遊びに来る時も「よー!」と元気よくドアを勢いよく押し開けて入ってくる。
なのでコン、コン、とどこか弱々しく響いたノックの音に、まことは最初誰か別の人が来たのかと勘違いをしそうになった。

「・・・まこ?起きてる?」

しかしまことの返事を待たずにキィ、と小さく開いたドアの隙間からは大きな体を縮めた慶次の姿が覗き、それがなんだか小さな子どものようでまことはつい緊張を忘れて、ふふ、と小さな笑みを漏らす。
その笑顔につられてか、暗い廊下からこちらを伺っていた、常よりもなんとなく強張っていた慶次の表情が途端に緩み、ドアの隙間からスルリと部屋に潜りこむと鼻の頭を掻きながら恥ずかしげに笑う。

「ふーよかった!まこが寝ちまってたらどうしようって思ってたんだ」
「ふふ、僕も慶次さん本当に来るのかな?って緊張してました・・・あ、クッションどうぞ」

悪いねぇ、と笑って対面に座り込んだ慶次とは、膝がくっついてしまいそうな程に近くてまことは小さく息を呑む。

─できるわけがない。

唐突にまことの脳裏に否定の言葉が浮かんだ。
狭い部屋は煌々と明るくて、慶次のくるりとした瞳はその明かりを弾いてきらきらしていて、そしてこんなに間近にいて、こんな所で自分のあんな胸を見せる事なんて出来るわけがないじゃないか。

「あの、けいじさん、あ、あの、僕、その、」

パジャマの膝布をぎゅう、と握り、俯いたまことが何かを必死に言い募ろうとする姿に、慶次は一瞬残念そうにくしゃりと顔を歪ませたものの、すぐに笑顔を浮かべて顔の前でぶんぶんと両手を振る。

「あ、ああ!いや!まこ!落ち込むなって!大丈夫だってば!俺はまこが『嫌だ』って言うならそんな無理強いは・・・」
「下じゃダメですかっ?」

「しな、い・・・って、は?」と慶次の間の抜けた声が明るい部屋に響く。

「あの、僕、上・・・む、胸は、その、は、恥ずかしいんですけど、でも、でも下だってちゃんと女の子なんです!女の子の身体で、だから、見せるの・・・下じゃだめ・・・ですか?」

慶次は口を半開きにしたままうるり、と潤んだまことの瞳を見つめ、視線をジリジリと大きめのパジャマを着ていても分かる程に盛り上がった胸、正座をしてパジャマが食い込んでいる足の付け根へと移していく。
まこともその視線を感じているのか、尻の下の足の指をもじりと動かし身じろぐが、そのまま黙って慶次の視線を受け入れる。

「い・・・や、下って・・・ええ?・・・えええ?!マ、マジでいいの?!俺はぜんっぜん!構わないけど!」

まことの身体に視線を走らせていた慶次はハッとしたように顔を上げると鼻息荒くまことに一歩詰め寄った。
瞳をいっそうキラキラと輝かせ、頬を赤あからめて嬉しげににまつく慶次に、まことは口角をヒクリと引き攣らせるが「い、いえ・・・。こんな身体でよかったら・・・」とこっくりと頷き一歩慶次から身を下げる。
そのまま小さな手がパジャマのズボンにかかったのを見て、慶次は「あっ!で、でも待って!ちょっとタンマ!俺、心の準備が出来てないって!」と大きな手で顔を覆い、いやいやと首を振る。

「ま、まずは落ち着いて、な?落ち着いて、深呼吸して・・・ふぅー・・・はぁー・・・はぁ・・・。お、俺さ、お茶持ってきたから。まこ。まずはこれ飲んで落ち着こうぜ?」

そのまままことを見ずに後ろを振り返り、ドアの近くに転がっていたコンビニの袋から2リットルのペットボトルを取り出すと栓を開けてゴッゴッとラッパ飲みをする。
まこも飲みなよ、と手渡されたペットボトルをまことはきょとりと見下ろし、少しだけ頬を赤らめると「ありがとうございます・・・」と慶次を真似するようにそっと唇を近づけた。
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